複雑・ファジー小説

Re: 血染めの彼岸花【月夜に降り立つ処刑人】 ( No.24 )
日時: 2011/07/14 13:31
名前: 王翔 (ID: rDOS.pEA)

第十五話



「沙零さん」
「はい?」
帰り道、田畑に囲まれた道を一人で歩いていると、雫が声をかけてきた。
雫は、にこっと微笑み、
「今日は、光山に行ってみませんか?」
「どうしたの?」
沙零は、首を傾げた。
どうして、突然光山に行こうなんて言い出すのかが分からなかった。
雫は、大人しくてとても山登りが好きそうには見えない。
「ほら、もうすぐお祭りじゃないですか。千沙さんと言う人を称えるお祭りなんですから、お墓参りをしようと思いまして……どうですか?」
「そうですね」
沙零は、頷く。
「では行きましょうか」
「はい」




現在は、夕方なので空は夕焼け色に染まり、オレンジ色の光が山を照らしていた。
山の足場が悪いのは、相変わらずだった。
生い茂る木々は、光を遮っていた。
夏なら、遊ぶにはいいかもしれない。
「急な坂ですね。道でも作ってくれればいいとは思うんですけど、この村では、山なんかには人の手を一切加えないと言うのが決まりでして……」
「へー……この村の人は自然を大事にしてるんですね」
「はい、都会なんかから見れば、遅れてるって思われるかもしれませんが、やっぱり素敵な村なんですよ」
雫は、そう言って嬉しそうに微笑んだ。
「はい、そうですね」
その後も、山を登り続けた。
急な坂を登り続けていると、何度も転びそうになったり草や木にひっかかったりしたが、ようやく山頂に登りつめた。
山頂のお墓の前で、一人の人物が立っていた。
「あ……」
沙零は、思わず声を漏らした。
「お知り合い、ですか?」
雫は不思議そうにしていた。
「はい。おーい、壇来さん」
「……沙零か。そっちは……」
「は、はじめまして。雫と申します」
雫はぺこりと頭を下げた。
「そうか…俺は、壇来と言って……加世田神社の廃墟に住んでいる」
「廃墟…ですか……?」
雫は首を傾げる。廃墟に住んでいると言われれば当然、こんな反応をするだろう。
「壇来さん、何をしていたんですか?」
「見ての通り、墓参りだ」
山頂に、涼しい風が吹いた。