複雑・ファジー小説

Re: 血染めの彼岸花【月夜に降り立つ処刑人】 ( No.29 )
日時: 2011/07/15 20:49
名前: 王翔 (ID: 3I1qtzhC)

第十九話



その日は、晴天だった。
綺麗な青空で、太陽が地上を明るく照らしていた。
「……うーん、いい天気だなぁ」
沙零は、さらさらと流れる川の前で呟いた。
「本当に、いい天気ですね」
「あ、雫ちゃん」
気付けば、雫が隣で笑顔を浮かべていた。
沙零もにこっと笑ってみた。
「それにしても、こんな綺麗な川、初めて見たよ。前に住んでた所は都会だったから、近くに川とかなかったんです」
「そうなんですか」
「はい、この村は自然がいっぱいで空気がきれいですよね」
「私もそう思います」
「ですよね」
それから、三十分ぐらい雫と川の流れを見ていたが、流石に退屈になってきた。
雫は、まだ飽きもしない様子でにこにこしながら、ずっと川を見つめている。
雫は、ああやって川を見つめているだけでも楽しいらしい。
邪魔するのも悪いので、沙零は雷手が何かゴソゴソしているのに気づき、近づいてみた。
「何してるんですか?」
「ああ、ちょっとね」
雷手が持っていたのは、小さな箱だ。
「それ、何ですか?」
沙零は、不思議そうに箱を見つめながら質問した。
「これは、救急箱だよ」
「救急箱?何でそんな物を?」
「ほら、これがあれば、誰かが怪我をしてもすぐに治療できるだろ?川ってのは、意外と危ないからさ」
そう説明して、雷手はにっこり笑う。
「そうなんですかー……」
「沙零、後ろ……あの子が来てるぜ」
「え……?」
振り向いてみると、そこにはさざめが立っていた。
「さざめちゃん」
「暇だったから、散歩してたの。たまたま通りかかっただけ」
さざめは、無表情でそう告げた。
「来てくれてありがとうございます」
沙零は、満面の笑顔を浮かべた。