複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【第二十二夜前編完成】【表紙絵アップ!】 ( No.124 )
- 日時: 2011/08/20 21:26
- 名前: 王翔 (ID: oivBxJIz)
第二十二夜 後編
眩しい光を感じて、ゆっくりと目を覚ました。
背中にふわふわした敷布団の感触を感じる。
目に見えるのは、見慣れた質素な木製の天井だった。
私の部屋か……。
はっとして、起き上がった。
「どうなってるんだ……?」
記憶が正しければ、私は千剣神に心臓を刺されて死にかけていたはずだ。
けど、いくら確かめても身体には傷一つ残っていない。
何が何だか分からない。
そう思いながら部屋のなかを見回していた時だった。
「千羅ちゃん、おはよー」
「夜月……」
「どうかしたの?」
闇鴉は、いつもと変わらない朗らかな笑顔で首を捻る。
「あれから、どうなったんだ?」
「ああ、あれねー……えーと、妖怪って不死なんだけど、自分の生命力を人に分け与えることができるんだよねー」
「どういうことだ?」
「うん、えっとねー……僕は不死じゃなくなったけど、千羅ちゃんを助けることができたんだよねー」
「どうやって?」
「聞きたいの?」
「ああ」
「キス、なんだけど……」
「なっ……」
絶句した。
聞かない方が良かったかもしれない。
どうすればいいんだ……?
「何でそんなことを……」
「それしか方法なかったんだよ〜」
闇鴉はにこにこと答える。
…………。
人工呼吸みたいなものと考えればいいのか。
そうだな、そう考えよう。
ただの救命措置に決まってる。この闇鴉に限って、恋愛概念なんかないに決まってる。
闇鴉は、にこにこしながら口を開く。
「千羅ちゃんってお母さんにそっくりだよねー」
「え……? 知ってるのか?」
「うん、マフラーをもらったことがあるんだよ。それで、恩返しがしたいと思ってたけど、あの人が死ぬ時の僕は臆病でね、
自分が不死じゃなくなっちゃうのが怖くて助けられなかった……。だから、千羅ちゃんの手助けでもすれば喜んでくれるかなって
思ったんだ」
「……それで、私の力を奪ったのか」
「うん、どうしても恩返ししたかったからね。好きだったよ」
そういうことか……
闇鴉の手助けは、私に対してのものではあるけど、実際は母上に対しての恩返しだったのか。
その為に、私の力まで奪った。
それを知ると、闇鴉はよほど母上のことが好きだったのだろう。
何となく、分かる。
私の手助けをするのは、母上の為なのか。
「あ、でも千羅ちゃんのことも好きだよ」
「それは……母上に似ているからか?」
「まあ、最初はそうだったかな。何かこう、すごい重なっちゃうんだよね」
闇鴉は苦笑いしながら、手振り身振りを交えながら語る。
私は、特に何も答えず聞いた。
「でも、一緒にいると……ああ、やっぱり違うなって。いくら似てても全然違うんだよ」
「違う?」
「うん」
まあ、そうか。
いくら似ているといえど、実際は違うことは多い。
ちょっとした癖から好きなものとか……やっぱり、いくら親子でも全然違うんだろう。
闇鴉が母上のことを好きだったことは良く分かった。
私は、闇鴉に顔を向け、言い出しにくかったが……
「その……き、キスしたのは……あくまで救命の為であって、それ以外の理由はないんだよな……?」
「うーん、どう思う?」
「……はっきりしろ! ま、まあ……私には恋愛概念なんかないが……」
「へー」
「……へーって何だ」
「何だろうね〜」
不意にドアが開き、心配そうな表情を浮かべた山神とアメ小僧が部屋に入ってくるなり、布団の周りを囲んだ。
「千羅殿、大丈夫か!?」
「千羅無事なのー!?」
「大丈夫、だ……何ともない……」
「良かったなのー!」
…………。
とりあえず騒ぎ立てる妖怪共を抑えつつ、窓に目を向け、果てしなく遠く感じるそこに何かを放り込むとたちまち
溶けてしまいそうなほど鮮やかな青空を眺め、小さくため息をついた。
結局、どういうものなのか分からない。
最も、闇鴉は真面目に答える気なんてさらさらないだろう。
諦めるしかないな。