複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【参照700突破】 ( No.143 )
- 日時: 2011/08/27 16:43
- 名前: 王翔 ◆OcuOW7W2IM (ID: 1MLq3CAv)
第二十三夜 後編
鎌女は、鎌を投げ捨てた──。
「は……?」
私は、思わず目をぱちくりさせた。
どういうことだ? 何で鎌を捨てたんだ?
全く理解できずにいると、鎌女が目の前に立っていた。
鎌女の腕が、真っ赤な鎌に変貌する。
「……!」
はっとして、鎌の刃が身体に刺さる直前に身を捻り、かわした。
すぐに後退して一定の距離を置く。
鎌を捨てたからといって、気を抜くところだった。よくよく考えれば鎌女は妖怪であるし、ただ武器で戦うだけということはあり得ないことだ。こういった力があっても不思議じゃない。
鎌女は、楽しそうに笑いながら告げる。
「これ、面白いでしょう? 腕が鎌になるなんて。これ、腕だけじゃないのよ。腕以外にも足でも顔でも何だって鎌に変化させられるんだから。その気になれば、全身鎌にだってなれるのよ?」
「なるほど……」
「ところで──そろそろ反撃してきたらどうかしら?」
「言われなくてもそのつもりだ」
銃を構えて、鎌女を見据える。
そして、引き金を引く。
大きな銃声が響き渡るが、鎌女は俊敏な動きで空高く舞い上がり、銃弾は行き場をなくした。
すぐさま、銃を空中へと向け、また引き金を引く。
空ならば、避けるのは難しいと踏んだのだが、鎌女は銃弾が迫った足を鎌へと変化させ、その刃は銃弾をあっさりと弾く。
どうしたものか……。
その時、空中……鎌女の背後、金色の大きな獅子が現れ、鎌女の背後から体当たりを仕掛け、不意打ちを受けた鎌女は落下するが、すぐさま体勢を立ち直す。
「あら? 誰かと思えば山神さんじゃない」
鎌女の言う通り、その獅子は山神だった。
山神は、さっと舞い降りて声を掛けてきた。
「千羅殿、無事か?」
「ああ……」
「良かった良かった。僕、心配したんだよー?」
いつの間にか、隣にいた闇鴉がにこにこと到底心配していたとは思えないような表情で言う。
まあ、正直なところ、助かるが……。
私は妖怪にトドメを刺すことができないからな。
「あらあら、妖怪に懐かれてるのね。興味深いわ」
不気味な笑みを浮かべた鎌女は、腕を再び鎌へ変貌させた。
そして、疾走してくる。
山神は、飛翔し、空中から翼で大きな風を起こす。
風が鎌女を襲うが、鎌女は鎌で風を切るように進み続け、こちらに向かって鎌を振り下ろしてくる。
銃で受け止めようと思ったが、銃は小さく受け止めるには頼りなく、いとも簡単に弾かれてしまった。
銃を落としてしまい、思わず冷や汗を流した。
既に鎌女が、目の前に迫っていて避けるのは無理、だった。
少しでも受けるダメージを、軽減しようと受身の体勢を取った。
しかし、覚悟した衝撃はなく、恐る恐る前を見た。
闇鴉の姿があった。その腕からは血が流れていた。
「え……?」
私は、状況が理解できなかった。
私を庇ったのか? 何でだ? 今まで一度だって、そんなことはなかったはずだ。
敵の攻撃を受けそうになっても、こいつは見てただけだったのに……どういうことなんだ?
とりあえず、鎌女に銃弾を浴びせ、吹き飛ばした。
「何で……」
「何でだろうねー?」
闇鴉は、腕に手をかざして傷を治してしまうと、いつも通りの笑顔で告げる。
「心配だったからかな? この前みたいなことにならないか」
「あ、ああ……」
そういうことなのか。
そう話しているうちに山神が舞い降りて、鎌女に噛み付く。
倒れた鎌女の前に、闇鴉は立つ。
「さて、そろそろ終わりだね」
「フフフ……羅宣の秘密、知りたくない?」
鎌女がそう言ったが、ただのはったりと信じて疑わなかった。
気を引くことを言って、反撃のチャンスを伺っているものだと。
「残念ながら、君の口から重要なことを聞けるとは思えない、ね」
闇鴉は、さっと手をかざし、鎌女を風で切り裂く。
「……──」
「え……?」
消え去る直前、鎌女は何かを言った。
それが、とても重要なことな気がしてならなかった。
闇鴉も驚いたような表情を浮かべていた。
今、何ていったんだ?
けど、もう確かめる術もなかった。
「夜月……今の、聞いたか……?」
「いや、はっきりと聞き取れなかったよ」
何だったんだ?
鎌女の言葉に興味を持つべきだった……。