複雑・ファジー小説

Re: 妖怪を払えない道士【第二十四夜開始】 ( No.156 )
日時: 2011/08/30 10:30
名前: 王翔 ◆OcuOW7W2IM (ID: foJTwWOG)

第二十四夜 前編



 
 とある大きな神社で、人々がざわめいていた。
 
「千連党さん! その、アレが逃げ出してしまいまして……」
「あれ?」

 それを聞いた千連党は、目を見開いた。
 そして、相手に問いかける。

「その話、本当か?」

 相手は、深く頷く。

「まずいな……。すぐに探せ。手が空いてる奴は全員集めて探すんだ」
「はい」
「あれは、まずい……」



           
           
              ◆




「千羅、たたたた大変なのー!」
 
 まだ朝日も登っていない、起きるには早すぎる時間帯にアメ小僧が慌てた様子で部屋に入って来る。

「何なんだ? こんな早くから……」
「外に妖怪が倒れてるのー!」
「妖怪……?」

 思わず首をかしげた。
 
「来れば分かるのー! 早くー!」
「何だ……?」

 疑問を浮かべながらも、アメ小僧の後へと続き、玄関に向かった。
 玄関に着くと、アメ小僧がドアを開けて、外を指差した。

「あれなのー」
「あれは……」

 確かに妖怪だった。
 上半身が人間の姿で、下半身が馬か何かの姿の妖怪だった。
 倒れたまま、こちらに目を向けてくる。
 とりあえず近づいてみる。
 妖怪は、虚ろな瞳でゆっくりと口を開く。

「殺して……」
「は……?」

 おもわず目を見開いてしまった。
 
「妖怪に……されて……」
「そっか。妖怪にされちゃったんだねー」

 いつの間にか、闇鴉がいた。
 闇鴉は、妖怪に語りかける。
 
「嫌だよね、元は人間だったんだから……」
「どういう……」

 闇鴉が手をかざすと、その妖怪は粒子となって消え去った。
 
「どういうことだ?」
「あの子はね、妖怪にされちゃったんだよ。あるんだよね。人間を妖怪に変える術が」

 人間を妖怪に変える?
 そんなことが、可能なのか……?
 あり得ないと思っていた時、足音が聞こえた。
 目の前に、蒼く長い髪の赤い着物を着た少女が立っている。

「え……?」

 何だ? 母上に似ている気がする。
 
「こんにちは、千羅ちゃん。会いたかった」

 少女は、にこりと微笑む。
 なぜ、私の名前を知っているんだ?
 見覚えがない。知り合いには、こんな少女はいなかったはずだ。
 
「私ね、星宣って言うの。羅宣の妹なのよ?」
「母上の……? いや、そんなわけは……」

 どう見ても、十代の少女にしか見えない。
 母上の妹だと言うなら、せめて二十代後半とか、三十台あたりが普通だろう。
 でも、コイツは私と同じぐらいじゃないか。
 おかしい……。

「私が、大人じゃないのがおかしい? 私は、妖怪になったの。それでね、歳を取ることも死ぬこともないのよ? いいでしょ? でね、たくさんの人を妖怪にして一緒に永遠に生きてもらうのよ」
「な……」

 人を妖怪に変えているのか?
 母上に妹がいるとは、聞いたことがないが、こいつがそうならば……教えられていなくても、おかしくはないかもしれない。
 
「でもね、私が人を妖怪にしつづけるには、必要なものがあるの」
「必要なもの……?」
「ええ」

 星宣は、にこりと微笑むと軽く抱きついてくる。

「……!」

 横腹あたりに、刃物が突き立てられる衝撃を感じた。
 痛みよりも、不気味な悪寒がする。

「あなたの血が必要なの。あなたは、私に最も似た力を持ってるんだから」