複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【闇鴉はニコニコ】 ( No.36 )
- 日時: 2011/07/23 08:47
- 名前: 王翔 (ID: H0NgZNVT)
第十五夜
「実は───龍然と呼ばれる強力な妖怪が出現したのですよ」
「龍然」
流石に、その妖怪は知っている。
かなり強力な、龍の姿をした妖怪だ。
龍然は、自然を操る強力な妖怪……それなりに強い道士が集まっても倒すことができなかったと言われていて、道士達に教えられてる対処法は─────龍然を見たら、逃げろ。
つまり、まず勝てない相手であると言うことだ。
「龍然は、とある村の近くで暴れていて、このままでは…その村にまで被害が及ぶのです」
日鞠は、いつもと違う暗い面持ちで言う。
「じゃあ…用って言うのは……」
「はい。龍然を一緒に倒しに行ってほしいのです。あの方に言われました。道士で、トップクラスの力を持つ者を集められるだけ、集めろと」
「分かった…」
私は、頷いた。
私は道士の力を失っているから、闇鴉を連れて行く必要がある。
「大変そうだね〜」
闇鴉は、いつも通り、にこにこした表情だった。
「龍然さんは、怒りっぽいからね〜…そろそろ潮時かなー…」
「潮時……?」
「うん、ずっと退治されないと思ってたんだよね〜。あんまり暴れてなかったし。暴れるのは、強い妖怪の性なんだろうね〜」
私は、難しい表情をした。
「それは……お前もか?」
「うん、まあね〜。ほら、千羅ちゃんの手助け───」
「待て、黙れ」
私は、慌てて闇鴉の口を開いた。
日鞠は、私が道士としての力を失ったことも、闇鴉に頼っていることも知らない。
万が一のため、ばらすわけにはいかない。
「どうしたのですか?」
日鞠は、不思議そうに首を傾げていた。
「いや、何でもない。ほ、ほら、行くなら早く行こうじゃないか」
「そうなのです。急がなければ大変なことになってしまうのですよ?」
「ああ」
★
外へ出ると、綺麗に空が晴れ渡っている。
雲一つない青空で、太陽の光が明るく地上を照らしている。
その日鞠の言う村は、案外近く、森を抜けた先にあるらしい……
「千羅がいれば、心配ないのですよ」
日鞠が嬉しそうに笑顔で言う。
「あ…ああ……」
「千羅は、天才なのですから」
「……」
そう言ってもらうと、何と言うか……道士の力を失っていることを隠しているのに罪悪感を感じる。
どうするべきか……
私はため息をついた。
闇鴉は、相変わらずニコニコしながらふわふわ宙に浮きながら、当然の如く足音など立てずについて来ている。
見事に背後にくっついてついて来るので、まるで悪霊にでもとり憑かれたみたいだ。
あまり、いい気分はしない。
「なあ、日鞠……他の奴にも声をかけたんだろう?」
「はい」
「誰に声を掛けたんだ?一応、名前を───」
名前、と言う言葉に闇鴉が反応したようだった。
特に気にしなかったが。
「リオとまいつなのですよ?」
「ま、まいつか…私、アレを見ると目まいと頭痛が止まらないんだが……」
「頑張るのですよ」
日鞠は、励ますように私の肩をポンと叩いた。
そう言われてもなぁ……まともに、妖怪退治できるだろうか……さらに、あんな強い妖怪を……───────無理かもしれないな。
そう思いながら、木々が多すぎるぐらい生い茂る暗い森のなかを歩き続けた。
「名前、ね……」
闇鴉は、珍しく難しい表情だった。
何を呟いていたのかは、聞こえなかった。