複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【なぜか勇者も出る!】(十六夜完成) ( No.46 )
- 日時: 2011/07/25 09:01
- 名前: 王翔 (ID: r9A/tVVL)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
第十六夜 後編
「夜月──────お前は、随分変わった………」
夜月……?何の名前だ?
「うん、そうだねー」
私の疑問など、関係なく闇鴉と龍然の話は続く。
「お前も────我の敵となったか……」
「そうだね。残念ながら……」
闇鴉は、苦笑いする。
まだ、雨は降り止まない。しとしと地面を濡らしていく。
「夜月────」
龍然は、低い声で呟く。
「うん、ありがとう。名前を呼んでくれて」
「我は……そろそろ潮時のようだ」
二人の会話を黙って聞いた。邪魔はしない……してはいけない気がした。
なぜかは、分からないが……この雨は、龍然の感情を表している気がしてならなかった──────
龍然の胴体からは、大量の血が流れている。
先程、闇鴉が切り裂いたからだ。
血は、雨に混じって流れていく─────
あの状態なら、いくら強い妖怪と言えど、もう長くはない。
ただ、どうしても疑問が消えない─────────────本当に、龍然は悪い、退治されなければならないような妖怪なのか?
違う気がした。
その反面、違う気がするのに──────それでも、龍然を退治しなければならない気がした。
私は、難しい表情をした。
この、違和感は、一体何だ───?
分からない、なぜ?
そう考えている間にも、闇鴉と龍然の会話は続いている。
「夜月───」
私は、夜月と言うのは、闇鴉の名前だと悟った。
龍然は、静かに告げる。
「我を────殺せ」
「本当に?龍然さんは、それでいいの?悪い妖怪じゃないのに」
闇鴉は、怪訝そうに尋ねた。
「ああ……我は、今は落ち着いているが────戻れない。じきに暴れだす。そうなれば、言葉も通じん」
「何があったの?」
「明確には、言えん。呪いによってな」
「呪い?」
「金と銀の札を持った───道士に気をつけよ」
道士、だと?
道士が何かやらかしたのか───…?
「我に言えるのは、これだけだ。さあ、早く殺せ」
「そっか。困ったなあ……でも、こうするしかないんだよね……僕はね、龍然さんのこと、親だと思ってたんだよー……
生まれたばかりの僕に、名前をつけてくれて───世話をしてくれて、いろいろ教えてくれて、たまに遊んでくれて──
だから、悲しいなぁ……」
闇鴉は、悲しそうにつぶやく。
「もう、他に道はない。夜月───我を殺せ」
「そっか。それで、本当にいいんだね?」
「ああ……」
「じゃあ、仕方ないか」
龍然は、天を仰ぐ────
「ああ……今日も────空が綺麗だ」
闇鴉は、闇の風を巻き起こし、龍然の全てを切り裂いた────
「さようなら、龍然さん」
龍然は、光の粒子と化して、空に溶け込むように消えた───────
★
リオや古我、日鞠と別れ、また森のなかを歩いていた。
闇鴉は、後ろからふわふわ浮きながらついて来る。
もう夜で、生い茂る木々の間から綺麗な月が見える。
空を見上げた時だった。
「ちょうど、こんな夜だったなー……僕が生まれたのは」
ようやく闇鴉が口を開いた。
「……」
何と答えていいのか分からない。
「夜月───この名前ね、呼んでくれるの龍然さんだけだったんだよ。でも、もう呼んでくれる相手がいなくなっちゃったね」
闇鴉は、苦笑いした。
「……名前ぐらいなら、頼まれれば呼んでやらないこともないが…………」
何だこの態度?
自分でもひどいと思った。もっとマシな態度が取れないのか……
「そうなんだ?じゃあ、頼もうかな。名前って、呼ばれないと忘れちゃいそうで怖いんだよね〜」
闇鴉は、先程とは打って変わっていつものように笑った。
「千羅ちゃんって優しいねー」
「べつに……そんなことはない」
そして、私は黙り込む。
「どうしたの?」
「……えーと、あれだ……あれ。お前の名前なんだった?忘れた」
「君ねぇ……」