複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【第十七夜開始】勇者様の話だよ! ( No.47 )
- 日時: 2011/07/25 15:47
- 名前: 王翔 (ID: OqA7j1VN)
- 参照: 十七話の主人公は古我様だぞ
第十七夜 序章
俺が────初めて恋をしたのは、勇者になった直後だった。
恐らくは、今も続いているのだろう……
それは──────────とても美しい女だった。
輝く長い銀髪に、真っ白な清楚な雰囲気を纏う着物……
今まで見たなかでも、最も美しいと思った─────────
その女のいる場所は、いつも吹雪が吹いていた。
それは、たとえ──家の中であっても。
そう、その女は妖怪だった。
ひたすら、自分いる所から、確か半径30キロだったか───家の中まで大量に侵入する吹雪を起こしている。
それは、その女の意思ではなかった。
その女の周りには、どれだけ降らせまいと祈っても吹雪が吹き続ける。
女がいるだけで、その近隣に住む多くの人間が凍え死ぬ。
外に出ないで暖かくしていればいい、と言いたいところだが、吹雪は恐ろしいことに家の中まで侵入し、ストーブなどすぐに機能を停止させられてしまう。
どんなに窓を閉めても、吹雪は窓を割って侵入する。
手のつけようがない。
けれど、俺は────その女に恋をしてしまった。
よく、女の元を訪れた。
俺は、勇者であるし、身体は頑丈だから凍死なんかしない。
いつも吹雪の中心を訪れた。
「古我」
「何だ……?」
女は、嬉しそうな表情で言う。
「私、あなたのことが好きなの」
「……俺もだ」
「でも─────」
女は、天を仰ぐ。
「あなたは、勇者様なんでしょ?」
「…………」
そう言われて、黙り込む。
次に言うセリフは、いつも聞いているし、分かっているからだ。
それが、良いものではないことも。
「だったら───私のことも殺さなきゃ。勇者の役目は、悪者を始末することでしょう?」
いつも、これだ。
いつもと変わらない返答をする。
「お前は──悪くない」
「でも、私がいるせいで、もう何百人───いえ、きっと数え切れないほどの人が凍え死んでいるの」
「だが、それは──お前の意思じゃない」
「そうね。そうだけど───きっと、私は殺される日が来る。たくさんの人のために」
女は、にっこりと微笑む。
「その時は、あなたが私を殺してね」
「俺に何てことをさせる気だ」
「だって───他の人に殺されるのは、嫌なの。私のことを、何も知らない人に殺されてもきっと何も残らないと思うの。
あなたに殺されるなら、本望よ。私が死ぬ時、最後に見た相手があなただったら、幸せだもの」
何も言い返すことができない。
……結ばれることもできない。
この女が、普通の人間だったら、どれだけ良かっただろう。
そう願った。
何度も────
だが、その願いは叶うことはない───────