複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【第十七夜開始】新イラストアップ ( No.54 )
- 日時: 2011/07/26 17:56
- 名前: 王翔 (ID: ckqt968m)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
第十七夜 前編
彼女と、初めて会ったのは─────やはり、吹雪の日だった。
あんなにひどい吹雪だと言うのに、全く寒そうな様子などしていなかった。
「お前、名は?」
「名前?ないの。私は、妖怪だから。雪娘でいいわ」
「……呼びにくい。お前の名は、今日から雪麗だ」
「せきれい……?綺麗な名前……それが、私の名前?気に入ったわ」
雪娘─────いや、雪麗は微笑んだ。
★
視界は、真っ白だった。
冷たく白い、雪の嵐が吹き荒れていた。
歩くたびに足が雪のなかに嵌るのが、鬱陶しくてたまらなかった。
普通の人間なら、ギブアップするんだろうがそういうわけにはいかない。
もはや20センチ程度は、積もっているであろう雪の上をサクサク音を立てながら歩き続ける。
なぜ、こんな所を歩いているのか──────────それは、雪娘の退治を命じられたからだ。
サクサク……
自分が足を止めていても、そんな音が小さいが聞こえてくる。
振り向くと、のろのろと緑色の髪を肩ぐらいまで伸ばした、どういうわけか口にテープらしきものを貼り、×印を描いている小学生ぐらいの子供。
沙残と言う名の道士だ。
まだ11歳だと言うのに、道士になった天才だ。
口にテープを貼っているからなのか、それとも、もともと声が出ないのか一切言葉を発することはなく、伝えたいことがあれば
メモ帳にでも文字を書いて伝える。
イマイチ何者なのか分からない。
相変わらず、沙残はのろのろと歩いている。
「そろそろ、村がある。もう少しペースを上げられないのか」
「…………」
サクサクサクサクサク
ペースが上がった。
沙残は、無表情のまま歩いていた。
まあ、無表情と言えば俺もそうなんだが。
特に会話もせず、歩き続ける。
今回、こいつと組まされたのは、恐らく────お互いに助けないからだろう。
俺が戦闘の際、仲間が危険な状態に陥っても手助けをしない。それは、こいつもだ。
昔、誰かに言われた。
『運命を変えてはいけない』
人が死ぬのは、運命だと。
それを助けることで運命を変えるのは、大罪なのだと。
だから俺は──────人を助けない。
勇者として、これはあり得ないことなのだろう。
★
村に到着すると、宿の部屋で休息を取る。
ストーブと机、椅子、ベッドが置かれたシンプルな部屋だった。
椅子に座って茶を飲んでいた時だ。
沙残がちょこちょこやって来て、メモ帳を見せてきた。
俺は、仕方なくメモ帳に目を通した。
『古我。 雪娘。 知り合い? 』
文章にはなっていない、単語だけが並べられたメモだ。
それでも、内容は理解できる。
「ああ、知り合いだが」
答えると、沙残はさらにペンを走らせる。
『悲しい?』
「…………」
意外にも、人を心配することもあるようだ。
と言っても、表情は相変わらず無表情のままなのだが。
「……ああ、悲しいな。どうすればいいと思う?」
興味本意で聞いてみた。
沙残は、再びペンと走らせ、次は一体どうしたのかキラキラ目を輝かせながらメモ帳を見せ付けてくる。
『 ハ ダ カ に な れ ば い い の 』
「こら幼女」
俺は思わず沙残の頭を叩いた。
親はどこだ。
こんな幼女相手に一体どんな教育をしているんだ。
沙残は、キョトンとした表情をしていた。
何がいけないのか分からないといった感じだ。
しばらくたつと、沙残はむすっとして持って来ていたらしいうさぎのぬいぐるみで遊び始める。
俺はため息をついた。
椅子にもたれかかり、天井を見上げた。
すると、脳裏にあの言葉が浮かぶ。
『その時は、あなたが私を殺してね』
なぜ、こうも報われない……
今がその時なのだろうか。
「……そろそろ行くか」
「……(コクコク)」
沙残は、人形遊びをやめると無言で頷いた。
「さっさと終わらせるぞ」
★
俺は、鎌を持って外へ出た。
鎌─────勇者の武器にしては、どうかと思うが。
沙残が後ろから小刀を持って無表情のままついて来る。
しばらく歩くと、境界が見えた。
ただの吹雪と雪娘の領域の境界だ。
ここから、さらに強い吹雪だ。
普通の人間なら、たちまち死んでしまう。
雪娘の領域に入り、かなり歩いた。
そして、吹雪の中心に雪娘を見つけた。
雪娘は、にっこりと微笑む。
「久しぶりね、古我。私、あなたのこと待ってたのよ?」
顔を赤らめて笑う雪娘。
俺は、鎌を構えた───────────