複雑・ファジー小説

Re: 妖怪を払えない道士【第十七夜完結】 ( No.62 )
日時: 2011/07/26 20:10
名前: 王翔 (ID: PITau1mw)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

第十八夜 序章




兄上が出て行ったのは、一年の前のことだった。
兄上は、優秀な道士で最年少で大道士にまで登りつめた。
私は、ずっと憧れていた。
その背を追っていた。




    ★





それは、雨の日だった。
雨の日で、外を見るとしとしと降る雨が地面を濡らしていた。
そんな天気だというのに、兄上は身支度を整え、玄関に向かい始める。
私は怪訝に思い、後をつけた。
玄関で靴を履いていた兄上に声を掛ける。
「兄上、こんな天気の日にどこへ行くんだ?」
兄上は、にっこりと笑うと私の頭をそっと撫でる。
「ちょっと、用事があるんです。しばらく戻って来ることはできません」
「え……」
思わず固まった。
兄上が、なぜ?
「千羅、そんな顔をしないでください。きっと戻って来ますから」
兄上は、苦笑いをした。
「あ、ああ……うん、頑張って来いよ」
「はい。あ、千羅」
「?」
「僕の部屋にある金と銀の札を取ってくれませんか?あれは、僕の最大の武器ですから、忘れてしまったら大変です」
「あ、ああ」
私は、早足で兄上の部屋に行き、金と銀の札を取ってくると兄上に手渡した。
「ありがとうございます」
「用って言うのは、妖怪退治か?」
「はい、僕は何があっても─────妖怪を倒さなければいけませんんから」
真剣にそう語る兄上。



それが、兄上を見た最後の記憶だ。
今頃、どうしているだろうか─────






            ★









『金と銀の札を持った道士に気をつけろ』
龍然の言葉が脳裏に浮かぶ。
金と銀の札────忘れかけていたが、兄上の武器だ。
まさか────嫌な予感がした。
だが、すぐにその考えは振り払う。


兄上は、悪いことはしないはずだ────