複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【第十八夜開始】 ( No.65 )
- 日時: 2011/07/30 20:51
- 名前: 王翔 (ID: IWyQKWFG)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
第十八夜 前編
目を覚ますと、窓から太陽の光が差し込んでいた。
起き上がると布団の隣に置いてある、目覚まし時計を取った。
時計は、午前七時をさしていた。
起き上がり、着替えると部屋を出て台所に向かう。
「おはよ〜、千羅ちゃん」
「おはよーなのーーーー!」
台所には、上機嫌な闇鴉とアメ小僧がテーブルでトランプをしていた。
テーブルは、不規則に並ぶトランプで埋め尽くされていた。
私はため息をつく。
「ちゃんと片付けしておけよ」
「はいはーい」
「分かったなのー」
とりあえず、私は椅子に腰掛けると銃を取り出し、手入れを始めた。
闇鴉が不思議そうに問うてくる。
「千羅ちゃん、どうしたの?いきなり銃の手入れなんか始めちゃって」
「妖怪退治の準備だ」
「そうなんだー、今日も大変だねー」
闇鴉はニコニコしながらそう言った。
表情を変えないまま、次の質問を投げかけてきた。
「金と銀の札を持った道士って、知ってる?」
「…………」
それを聞かれて、沈黙。
龍然は言っていた───────金と銀の札を持った道士に気をつけろ、と。私が知っている限り、金と銀の札を武器にする道士は
兄上だけだ。
気をつけろ、と言うぐらいだから、その道士が何かとんでもないことをしでかしたのだろう。
だが、兄上が妙なことをしでかすはずはない。
「千羅ちゃん?知ってるの?」
「いや……知らん」
思わず嘘をついてしまった。
「そうなんだー」
闇鴉は、苦笑いしながら呟く。
何となく、分かる。闇鴉は、今の私の発言を事実だと受け止めていない。何か隠していると疑っているんだろう。
トランプをいじくりまわすアメ小僧を差し置いて、闇鴉は私にさらに質問を投げかけてくる。
「金と銀の札を使う道士って少ないの?」
ここでうっかり、一人しか知らないと答えてしまうとまずいだろう。
あくまで冷静に答えた。
「さあ…どうだろう。なんせ、見たことないからな。相当少ないんじゃないのか?札を使う道士なら多いが、組み合わせる札の種類は
かなりあるが、金と銀の組み合わせは使い勝手が悪いそうだ」
勘づかれないよう、適当な説明を交えて最もな返答であるように装った。いや、もう勘ぐられている可能性は高いが…………
「へー、なるほどー」
闇鴉は、相変わらずにこにこしている。
「さて、そろそろ行くか」
「うん、行こうか」
立ち上がると、手入れした銃を懐にしまった。
「行ってらっしゃいなのー」
★
今日は、空がなんとなく暗い。いつもの森を抜け、山を登った。
今回退治する妖怪は、山に住んでいる山神と呼ばれる妖怪らしい。山神というのは、山を守る守り神のようなものだが実際のところ、
その正体は妖怪だ。
今までは、おとなしく山を見守っていたそうだが、最近は急に山に山菜やキノコを採りに来る人々を襲うようになったらしい。
近隣の村では、この山の実りが生活の資源となっているところも少なくない。
流石に退治せざるを得ない状況になってしまった。
守り神を倒さなければならないとは少々気が引けるが仕方無い。
私は思わずため息をつく。
「どうしたのー?千羅ちゃん、そんなに暗い顔しちゃって。ほらほら、この山にはおいしそうな木とか雑草とか花とか土とかいっぱいあるよ〜」
闇鴉は、私の目の前をふわふわしながら笑顔で語る。
次は、山の素晴らしさ(食用として)か。
もうやめてくれと言いたいところだ。だが、言ったところでコイツはやめないだろう。
どう考えても、人の話を素直に聞くようには見えない。
「前でふわふわするな、鬱陶しい」
「えー……しょうがないなぁ」
闇鴉は、弱冠不満そうな表情をしたが、渋々私の後ろに回った。
しばらく、足場の悪い山道を邪魔な草などを掻き分けて進み、ようやく山頂に到着した。
山頂には、まぶゆいほどの黄金色の毛を持ち、透き通るような蒼瞳で、葉っぱを繋ぎ合わせたような美しい羽を生やした巨大な獅子が
いた────
これが、山神か。
その神々しい姿は、確かに神と呼ぶに相応しかった。
「我を殺しに来たか、道士よ。受けて立とうではないか」
私は銃を構えた。
「ねーねー、山神さん、最初に一つ聞いていい?」
闇鴉は、大きな岩の上から、のんきな声で言う。
山神は闇鴉を見た。
「何だ。言ってみよ」
「何で急に暴れだしちゃったのー?」
すると、山神は唸る。
「道士が……金と銀の札の道士が……これ以上は言えん。あやつは、我を悪しきものにしようと…………」
私は思わず、複雑な表情になり、俯いた。
またか。また、金と銀の道士……
「ぐぐ……」
山神の目が鋭く光る。
そして、空高く舞い上がり、鋭い牙を剥き出しにして降下してくる。
私は、さっと避け、ポケットからあるものを取り出す。
金と銀の札だ。
龍然の言葉を聞いて、恐らく金と銀の札を使って道士がおとなしい妖怪を暴走させているのだろうと考えた。
同じものを使えば、戻せるかもしれない。
私は、金と銀の札を構える。
「大地よ、我に力を 妖の悪しきものを 除外せよ」
そして、札を投げた。
札は、その姿を金と銀の光に変える────
「ぬ?」
山神が気ずいて空を見上げた瞬間、金と銀の光がお互いに交錯しながら一斉に山神に降り注いだ───
私は緊張しながら、その様子を見届ける。
光が消えると、山神がキョロキョロと周囲を見渡していた。
「何だ…我は、戻ったのか?もう戦う気はおきん」
成功、か。
私はほっとして胸を撫で下ろした。
「すごいね〜」
闇鴉が隣に舞い降りて、にこにこしながら山神を眺める。
「でも……」
「何だ?」
「千羅ちゃんは、どうして道士の力が使えたの?」
「え……?」
はっとした。
低級の札なら力がなくても、扱えるが金や銀となると力なくしては扱えない。
「千羅殿」
「あ」
思わず声を漏らした。
「礼を言う。そなたがいなければ、我は戻れなかった。礼と言っては、何だが─────」
嫌な予感がする。
これは、恐らくあのパターンだ。
流石にこれ以上増えるのは、勘弁してほしい。それに、こんなばかでかい妖怪、家に入るわけが─────
「千羅殿に仕え、お守りいたす。どうか傍においていただきたい」
「いや……私の家にお前は入れない。でかすぎるし……」
「それならば、心配無用」
山神は、どろんと音が出そうな煙を出し、どういうわけか人の姿になった。
その見た目は、山神らしく、緑色の髪……そして、葉っぱでできた服………
「とりあえず服を改めてくれ」
「これではダメか?」
「ダメだ」
山で生活する少数民族じゃあるまいし。
「千羅殿、これでよろしいか?」
次は着物になっていた。
「ああ」
「それにしても、誰がやったんだろうねー」
闇鴉が呟いた時だ。
目の前に、とある人物が現れた。
金髪の着物を着た人物─────兄上だ。
「久しぶり、ですね。千羅」