複雑・ファジー小説

Re: 妖怪を払えない道士【第十八夜前編完成】 ( No.66 )
日時: 2011/07/28 13:12
名前: 王翔 (ID: D3/A/8Hc)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

第十八夜  後編






「久しぶり、ですね。千羅」
兄上は、にっこりと笑った。その手には、金と銀の札が握られていた。
私は、頭が真っ白になった。
「兄上……まさか…………」
「そやつだ。ワシに呪いをかけたのは」
森神が兄上を指差して、真剣な表情で言った。恐らく、嘘ではなく本当のことなのだろう。
沈黙が訪れる。
風が吹き、山頂の木々の葉が揺れ、さわさわと音が響く。
「兄上……どうして、こんなことを……」
兄上は、優しい表情でこう言った。
「平等じゃないからです。多くの妖怪が退治されるなか、おとなしくしてる妖怪だけ、それを免れるなんて……平等じゃない」
「兄上……それは、おかしい……」
私は恐る恐る反論した。
それならば、罪を犯した人間だけが裁かれるのはおかしい、平等じゃないと言うのと同じようなものだ。
人の命を奪った殺人犯が死刑になるとして、人を殺してない人までも死刑にするような…………そこは、平等にするべきものでは
ない。
「千羅、妖怪のなかには人を襲いたくなくても、本能で襲ってしまうものもいます。それとは、逆に制御をできて退治されることを
免れるものはズルイと思いませんか?」
不思議な、思わず納得してしまいそうな力がある。兄上の話術には。
だが、納得するわけにはいかない。
次に言う言葉を考えていると、兄上が金の札を闇鴉と山神に向けて放った。
「……!!」
金の光が強く輝き、闇鴉と山神は一瞬で倒れた。
「なっ……」
「今は眠っているだけです。どうせ死ぬなら、眠ったままの方が楽でしょう」
「!!」
一瞬で眠らせてしまうとは……やっぱり、強い。
闇鴉と山神はそれなりに上級の妖怪だ。それを、いとも簡単に………
それよりも、止めなければ。
「ダメだ、兄上。罪もない妖怪を殺しては…………」
「千羅、妖怪の味方をするんですか?これは警告です、そんなことは、すぐにやめなさい」
兄上は鋭い眼光で言う。
思わず息をのんだ。
兄上は、金の札を闇鴉と森神に向け、呪文を唱える。
「空よ 我に力を  妖に  制裁を」
そして、金の札が宙に投げられる─────
「まっ……」
私は、兄上と闇鴉達の間に割って入った。
目の前に、火花が見え、身体に衝撃が走った。
「うっ……!」
そのまま倒れた。
相当の威力で、妖怪なら死んでしまうだろうが、道士は道士の技に対して耐性をつけているから死ぬのは免れた。
仲間のミスで技を喰らうことを想定して、訓練をさせられていたのだが、初めて役に立った。
と言っても、やはり強力な技に変わりはなく、とんでもないダメージを受けていた。
耐性があるおかげで死ななかったが、このままでは痛みに耐え切れずに死んでしまうのでは、と思うほどだ。
「千羅……なぜですか?」
兄上は、悲しそうな表情をしていた。
「罪のない……妖怪を、殺しては……いけない………」
声を発するのも、やっとだ。
「妖怪の味方などしていては、道士として使いものになりません。せめて……一思いに殺してあげますよ」
「……っ!!」
なぜ?
なぜ、こんなことに………
兄上が、私を殺すのか…………あんなに、尊敬していたのに……そんな相手に、私は…………
兄上が、金の札を持ち、呪文を唱える。
金の光が顕現する。
「兄上……」
ダメだ、もう死ぬ。
そう思い、目を閉じた。
キイン!
闇鴉が、間に割って入り、黒い結界を顕現させていた。
結界は、金の光を打ち消す。
「眠っていたのでは、ないんですか?」
兄上の問いかけに、闇鴉は笑って答える。
「寝てなかったよ。僕には、効かないからね〜。二人で話させてあげた方がいいかなって眠ってるフリしてたんだけど、流石に
まずいと思ってね〜」
「なるほど……」
「それにしても、ひどいお兄さんだね〜、妹を殺そうとするなんて」
「…………」
兄上は、黙って姿を消した。








             ★






目を覚ますと、見えたのは白い天井だった。
そして、周囲を見回すとピンクの椅子に白い机……道術の本で埋め尽くされている本棚─────私の部屋か。
ゆっくりと出来事を思い出す。
…………もっと、強くならなければ……強くなって兄上を止めなければ……
「おはよーなの、千羅。目が覚めて良かったのー」
突然、アメ小僧が覗き込んできた。
「気分はどうなのー?もう大丈夫なのー?」
心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だ」
とりあえず、起き上がった。
「千羅ちゃん、おはよー」
「千羅殿、目が覚めたか」
にこにこしてる闇鴉と森神。
「ねーねー」
「何だ」
「千羅ちゃん、僕の名前読んでくれるんじゃなかったの?そう言えば、一度も呼ばれてないなーと」
「あ」
すっかり忘れていた。
ああ言っておいて、忘れてたなんて………
「あー…えーと、お前の名前、何だった?」
「千羅ちゃん、ケンカ売ってるのかな〜?」
「いや……悪い」
「千羅殿、我に名をつけてくだされ」
「待て」
「僕も名前ほしいのー」
「待て、そんなに一気に言われても……」
私は、頭を抱えた。
「あ、僕、散歩行きたいな〜」
「アメほしいのー」
「お茶が飲みたい」
それぞれ、私の様子など構わずに言う。
もう逃げたい。
これだから、妖怪は……
姉上、早く帰って来ないだろうか。
早く帰って来て、この鬱陶しい妖怪共の世話をしてくれ。
そう願った。