複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【第十九夜開始】 ( No.72 )
- 日時: 2011/07/29 10:03
- 名前: 王翔 (ID: Lp.K.rHL)
第十九夜 前編
私は、神社の前に立ち、悩んでいた。
どうすれば、兄上を止めることができるんだろう…………
分からない……何も、方法が思い浮かばない。
神社の周囲を囲む木々の葉が風でさわさわと揺れる。
ため息をついた。
ふと、足音が聞こえた。
「千羅ちゃんー」
そう呼びかけながら、トタトタと駆けて来たのは、姉上だった。
ポインポイン
ああ、何か揺れてる…………
「やめれーーーーーーーーーー!!!走るな!それを私に見せるなーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
私が叫ぶと、姉上は立ち止まりにっこりと笑った。
「大丈夫。千羅もきっと大きくなるから」
「なる気がしない……」
そこら辺にいる小学生にも負けてるんだし。
「それで、どうしたの?千羅ちゃんがぼーっとしてるなんて」
「兄上のことを、考えていたんだ」
「帝羅、ね」
姉上は、複雑な表情で俯いた。
帝羅とは、兄上の名前だ。
「どうすれば、止められるのか……分からない」
「きっと、大丈夫。何とかなる」
姉上は、にっこりと微笑み、私の手を握った。
「だから、そんなに暗い顔しないで」
「そう、だな」
確かにそうだ。
暗い気分でいては、良い案も思い浮かばない。
★
というわけで、私は妖怪共に相談してみた。
こう言う時は、数が多い方が多く便利だったりするかもしれない。
「まあ、なぜあんなことをするようになったか、分かれば何か効果的な方法が思いつくかもしれなんだが……」
「うーん……と言っても、分かんないしね〜。ねーねー、千羅ちゃん、お菓子食べたいな〜」
にこにこしながら、関係ないことを口走る闇鴉に続き、
「ボクもお菓子たっくさんほしいなのー」
アメ小僧も役に立ちそうにない。
とりあえず、私は怒りたかったが、この場が乱れると話が続けられなくなってしまう可能性がある。
あくまで冷静に、
「生憎だが、私に豚を育てる趣味はない」
「「…………」」
闇鴉とアメ小僧はキョトンとした表情で黙り込んだ。
どうやら、効果はあったらしい。
「あー……そうだねー……うん、僕も豚にはなりたくないし、控えめにしておこうか……」
「ボクもなりたくないのー。飴だけで我慢するのー」
それぞれ、冷や汗を流しながら呟いている。
「じゃあ、話の続きだが────」
「千羅殿、我がある話をしてやろうぞ」
「え?」
私は、思わず目をぱちくりさせた。
いきなり何だ?
山神は、笑うと語り始めた。
「とある山に、金と銀の札を持った道士がやって来た。道士は、山にいた猫荒らしと言う妖怪と恋をした。だが─────
猫荒らしは、山を荒らす衝動に苛まれていた。山を破壊してしまう───彼女の意思ではなかったが、これを放っておくわけには
いかなかった。ついに、他の道士が猫荒らしを退治に来た。道士と猫荒らしは別れることとなり、猫荒らしは姿を消した──
そして、その道士はこう言った─────平等じゃない、と」
「それは……」
金と銀の札の道士……思い当たる人物は一人しかいなかった。
「山神、それは────兄上、か?」
「さて、どうだろう……」
山神の言う道士とは、兄上で間違いまいだろう。
でなければ、わざわざ話したりしない。
兄上は、妖怪と恋をした。
山神の話を聞く限り、その猫荒らしは恐らく────
「千羅殿、この話にはおもしろいことがあってな」
「おもしろいこと?」
私は首を傾げた。
「実は────その猫荒らしは、死んではいない」
「!!」
生きている、のか。
ならば、兄上を説得できるかもしれない。
「じゃあ、その猫荒らしを探し出して、兄上に合わせれば……」
「止められるかもしれないね〜」
「お前、ちょっと黙れ」
私は、山神に詰め寄った。
「それで、猫荒らしはどこにいるんだ?」
山神は、楽しそうに笑う。
「驚くことに、我がいた山だ」
「あの山か……すぐに探しに行こう。いや、お前らがついて来なくても行く」
「何を言う、千羅殿。当然の如く、お供いたす」
「僕も行くよ。おもしろそうだしね〜」
「ボクはお留守番してるのー」
思わずこけそうになった。
みんな行くって言っている時に、アメ小僧は当然の如く行かないと。
まあ、アメ小僧は仕方ないか。
「ところで、山神……」
「何用か、千羅殿」
「なぜ、知っていたんだ?」
気になったことだ。
「我は、山神だからの。山で起こったことは全て知っている」
そう言い、山神は笑った。
「そうだ、千羅ちゃん。空飛びたくない?」
闇鴉が上機嫌に問うてきた。
「それは、どういうことだ?」
「僕は、飛べるからさ〜抱えて飛んでみたら、山に着くのも早いんじゃないかな〜」
「…抱えるのではなく、背中に乗っていいのなら」
「いや、それは困るかな……」
闇鴉は、苦笑いした。
やっぱり、徒歩で山に向かう。