複雑・ファジー小説

Re: 妖怪を払えない道士【第十九夜前編完成】参照300突破 ( No.79 )
日時: 2011/07/30 09:35
名前: 王翔 (ID: GrzIRc85)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

第十九夜



見事な猛暑な上、暑苦しい太陽の光がギラギラ照りつけるなか、己の力を最大限に振り絞って猫荒らしを探すため、以前に訪れた山神の住処だった山を訪れた。
大量の木々や、草が生い茂り、行く手を阻んでいた。さらに、足場が悪く、油断すれば一体どうなることやら。
背の高い邪魔な草を掻き分けつつ足場に気を配りながら、進んだ。
太陽の暑い光が頭に照り付けて来るから、相当辛い。
油断すると、昇天してしまいそうだ。
私は、後ろからついて来る闇鴉と森神に目を向ける。
二人はいつも通り、涼しい顔でふわふわ浮きながらついて来ている。
それを見て、私は嘆息。
妖怪は、暑さを感じることも寒さを感じることもないらしい。だから────真夏でも長袖で平然としていられるのだ。
さらに、浮くことができるからこの山で足場を心配する必要もないし、疲れることもない。
苦労してるのは、私だけか……羨ましい。
とは思っても、妖怪になってみたい、とまでは思わないが。
「わー、ほら、千羅ちゃん見てよアレ、あの木とってもおいし」
闇鴉が笑顔で何かを語ろうとするが、私はそれを遮った。
言わせてたまるか。
「黙れ」
「え〜、千羅ちゃん、つれないな〜」
なぜ残念そうな顔をする。
そんなことよりも、今はもっと重要なことがある。
私は、山神に目を向け、問いただした。
「それで、猫荒らしはどこにいるんだ?」
「ふーむ、分かれば教えてやりたいところだが、猫荒らしはウロウロしているわけで……一つの場所に留まってはいない」
「くそ、役に立たんな」
私は思わずそうはき捨てた。
「千羅殿!?我も必死に、全力で、頑張って、全身全霊をかけて探すから見捨てないでくれ!」
山神が慌てふためきながら言う。
……ああ、ちょっと言い方が悪かったか。
何だか罪悪感を感じてしまう。
私は邪魔な草を掻き分けつつ、素直に謝罪した。
「いや……悪かった。分からないなら仕方ないよな……」
「千羅殿!そんなに暗い顔をしないでくだされ。我が全力で探して─────」
山神が、両手を合わせ、目を閉じる────すると、白い煙が巻き起こり、山神の姿を変えた。
神々しい黄金色の獅子だ。
「この姿の方が五感がよく働く……」
「わー☆山神さん、相変わらずその姿だと大きいね〜」
闇鴉は、おもしろそうに山神を観察しながら言い放つ。
確かにその通りだ。
少々でかすぎる気もしないでもないのだが……それは、あえて言わないでおこう。
「それにしても、疲れる……」
この山のどこにいるのか分からないものを探すのは、相当きつい。
山神の時は、山頂に行けばいいだけの話だったが。
「あ、千羅ちゃん」
「何だ?」
「後ろ、何もないから落ちないように気をつけてねー」
「は……?」
闇鴉に言われ、気づいた時には遅かった。
私は、足を踏み外しゴロゴロと落ちていく。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??」
「せ、千羅殿ーーーーー!?」
「おーい、千羅ちゃん大丈夫?」









                        ★




ゴロゴロと転がり落ちて、
ドン!
最後に何かにぶつかった。
地面でも草の上でもない───けれど、感じたことのある感触。
「うごっ」
呻き声が聞こえる。私の下からだ。
はっとして、慌ててその場から飛びのいた。
そして、その場を見据える。
やっぱりだ。誰かを下敷きにしてしまっていた。
金髪の肩ぐらいまでの髪に、猫の耳と尻尾の生えた少女だった。
少女は、不満そうにこちらを見る。
「まったく……私の上に落ちて来るとは何事じゃ。気をつけんか」
「あ…」
思わず声を漏らす。
その姿は、まさしく猫荒らしだった。
「お前、帝羅って名前の道士を知らないか?」
「帝羅……そなた、帝羅の知り合いか!」
「妹だ!」
「弟の間違いではないか?」
「妹だ、殴るぞ猫。とにかく、私と来てほしい。それで、兄上を止めてほしいんだ」
私は、莉子と名乗った猫荒らしに全て説明した。
「なるほど……それは、黙ってはおれんのじゃ」
莉子は、真剣な表情で言った。
「よかろう、ついて行こう」
「ああ、頼む」
「良かったね〜、これで止められそうだね〜」
いつ来たのか、闇鴉が明るい表情で言う。
「ああ」
これで、解決まで一歩近づいた。