複雑・ファジー小説
- Re: 妖怪を払えない道士【第十九夜完結】参照300突破 ( No.85 )
- 日時: 2011/07/30 19:42
- 名前: 王翔 (ID: IWyQKWFG)
第二十夜 前編
猫荒らしを入手した私は、一旦帰るため、緑濃い景色のなか、歩いていた。
雲一つない空は心が溶けてしまいそうなほど鮮やかな青色だった。そして、刺さるような強烈な日差しは真夏の太陽を連想させた。
田畑に囲まれた道には、緑色の草や鮮やかな花が咲いていて風情を感じられる。
妖怪共がちゃんとついて来ているか、確認しようと振り向く。
「ん?」
私は、怪訝に思った。
なぜならば、ついて来ていたのは山神だけだったからだ。
私の様子を心配してか、山神が声をかけてくる。
「千羅殿、どうしたのだ?」
「闇鴉───いや、夜月と莉子はどこに消えた?」
よし、今度は闇鴉の名前を覚えていた。
「ああ、それならあそこに……」
山神が、指差した方向に視線を転進させる。
すると、私の瞳には畑に降りて、野菜をもぎ取り、勝手に野菜を食べている闇鴉と莉子の姿が鮮明に映りこんだ。
二人は、うれしそうに野菜をほうばっている。
通常なら、まあ……微笑ましい光景だな、で済ませられるだろう……
しかし、あの畑は誰のものだ?もちろん、私が耕して野菜を育てているわけはない。
「何をやってるかお前らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
私は、闇鴉と莉子を叱咤した。
二人は、こちらを見てキョトンとしている。
「千羅ちゃん、どうして怒ってるのー?」
「私も気になるのぅ……どうしたのじゃ?カルシウムが足りないのかの?」
闇鴉も莉子も、怒られるような心当たりはないと思っているようだった。
何だ……こいつ等……これ、どうすればいいんだ……
「そこは、他人の畑だぞ!勝手に野菜を取ってはいけないに決まってるだろう!?」
「え〜、そうなの〜?」
「うーむ……」
一目見て分かるぐらい、畑を荒らしている。
これは、劣悪な状況と言えるだろう。畑の持ち主が出て来たら説明しようがない。
逃げるしかないな。
「……早く帰るぞ。ついて来なかったら置いて行くからな」
私は、そう言い、踵を返すと足早に歩き出した。
すると、闇鴉と莉子は顔を見合わせ、ついて来る。
★
神社に戻ると、私は晩御飯の支度に追われていた。
莉子が追加されたから、さらに一人分多く作る必要がある。
チリンチリン……
鍋で野菜を煮込んでいると、鈴の音が聞こえる。
「……莉子か」
「うむ」
莉子がこちらに向かって歩く度に、尻尾にぶら下がった鈴の音が響く────
「どうした?」
「手伝いでもしようと思っての」
やはり女だからだろうか……手伝ってくれるとはいい妖怪だ。
莉子は隣に立ち、洗い物をしてくれる。
静寂が訪れる。
いざ、何を話すべきか分からない。
「千羅、帝羅の居場所は分からんのか?」
「ああ……簡単には、見つけられないと思う」
「ふむ、気長に待とうかのぅ」
「まあ、心配するな。必ず見つけ出して、再開させてやる」
私は、あくまで真剣に言った。
莉子は嬉しそうな表情を浮かべ、
「うむ。千羅は、男のなかの男じゃな」
「いや、私は女なんだが……」
「将来は、立派なお嫁さんがもらえるぞい」
「私は女なんだが!?」
いくら胸が小さいからって、バカにしすぎじゃないのか。
「すまん……つい」
いや、ついって……
「おーい、ご飯できたかな〜?」
闇鴉がにこにこスマイルでふわふわ飛んで来た。
「夜月か……」
「あ、名前、やっと覚えてくれたんだ?良かった」
闇鴉は、わしゃわしゃと私の頭を撫でてきた。
「やめろバカ、私はガキじゃない」
「千羅ちゃん、照れててかわいーな〜」
「照れてない!!」
そう言って、闇鴉を睨みつけた。
「千羅は可愛いのぅ」
莉子も悪乗りしたのか、涼しい表情で呟く。
ああ、これは……相手にして、怒ったら負けだ。