複雑・ファジー小説

Re: 妖怪を払えない道士【第二十夜開始】参照300突破 ( No.88 )
日時: 2011/07/31 10:09
名前: 王翔 (ID: sCAj955N)

第二十夜  中編





朝───窓から明るい日差しが差し込んでいた。
私は、妖怪退治に出かけるため、銃の手入れを行っていた。
銃についた汚れを、布で拭き取る。
「おはよ〜千羅ちゃん。今日も仕事かな〜?」
隣にいた闇鴉が笑顔で声をかけてきた。
私は目を合わせず、答えた。
「ああ……」
「へ〜大変だねー」
闇鴉は楽しそうに笑う。
私は、じっと闇鴉を見据えた。
そう言えば──こいつの強さはどれほどのものなんだ?
今まで見た限り、こいつが苦戦しているところなんか一度も見たことがない。あの兄上の術でさえ───効いていなかった。
山神には効いていたと言うのに……
妖怪の強さは、基本的に普通の妖怪よりも、山神のような神と称されるものの方が格段に強大な力を持ち合わせている。
神と称される妖怪に勝てるそれ以外の妖怪は滅多にいない。
だが───あの山神に効いた術がこいつに効かないのであれば───相当な力を持っている。
それこそ、道士に退治される恐怖など必要ないかの如く。
その時、ガチャリとドアノブを回す金属音が鳴り響き、お盆にお茶を乗せてそれを持つ、山神が現れた。
山神は、お盆を置くと真剣な表情をした。
「千羅殿───我に名をつけてくだされ」
「は?」
思わず目をぱちくりさせた。
いきなり何を言うんだコイツは。
名前をつけろだと?そんな責任重大なことを私にやらせる気か。
「千羅殿、頼む!我に名を!」
山神は、懇願するように土下座までした。
流石の私も、これには慌てた。
「わ、分かったから、それをやめろ!」
「うむ、了解」
山神はぱっと顔を上げる。
しかし、どうする……?名前なんか、急に言われてもなあ……
山神だから、何か山にあるものからとって……確か、こいつ獅子の姿の時は葉っぱの羽があったか?
「じゃあ、葉陰(はかげ)はどうだ?」
「葉陰……?」
「ああ、葉っぱの葉から……葉陰だ」
「…………」
「な、なんだ?まさか、気に入らないのか?」
私は恐る恐る問うた。
山神は、にこりと笑う。
「とても気に入ったのだ。葉陰……今日から、それが我の名だな」
「ああ」
「葉陰かーいい名前だね〜」
これで良かったのか?
私はとりあえず、立ち上がる。
「そろそろ行くか」
「うむ、そうじゃな」
「え?」
いつの間にか、隣に莉子がいた。
涼しい顔でちょこんと正座している。
「いつ入って来たんだ?気づかなかったんだが」
「私は猫じゃからのぅ。知らない間に出現しているものじゃよ」
「……」





               
                    ★






透き通るような青空を見上げると、白い雲がゆっくりと流れていた。
降り注ぐ日差しは、思わず目を閉じたくなるほど眩しいものだった。
視線を、上から自分の正面に転進させると、目の前には見渡す限りの淡い緑色の芝生が広がっていた。
「きれいな景色だけど、ちょっと戦うには不便かな〜」
闇鴉が苦笑いしながら呟く。
確かに、その通りだった。
何もない。だから、戦う際、隠れたりはできない。
「ここにいるんだよね〜?」
「ああ」
芝生に訪れた者を、どこからか現れ、突然襲い掛かる妖怪らしい。
どこから出て来るか分からない。
私は視線を次々に転進させ、妖怪の姿を探す。
「さて、我も戦闘態勢に入ろうか」
山神は獅子に変化させた。
そして、羽を羽ばたかせ飛翔する。
どうやら空から妖怪を探すらしい。便利なものだ。
闇鴉がトントンと肩を叩いてきて、私は振り向いた。
「何だ?」
「何の妖怪なの?」
にこにことおもしろそうに質問してくる。
「緑タコ……」
「おもしろい妖怪でね〜」
「……」
なぜ、タコが芝生にいるのか疑問だ。
そう思いながら、私は探すべく芝生を歩き回った。
「あ、千羅ちゃん。足元に──」
闇鴉に言われた時には、遅い。
緑色のタコの足か手かは知らないが何か見ていて不快にしかならないものが足に巻きついた。
「!!」
「千羅、私が支えておくから踏ん張るのじゃ!」
莉子が背後から、がっしりと捕まえてくれる、が……ぐいぐい引っ張られる。
「踏ん張るんじゃぞ!」
「いや、このタコの足を切るかどうかしてくれ!」
頭を使え頭を……