複雑・ファジー小説

Re: 妖怪を払えない道士【第二十夜完結】参照300突破 ( No.96 )
日時: 2011/08/01 17:29
名前: 王翔 (ID: 1Psikgnr)

第二十夜 後編




美しい青色に、白い煙のような不規則な形の雲が流れているきれいとしか言いようがない空の下、
緑タコに足を掴まれ、背後から莉子が引っ張ってくれている状況だった。
「踏ん張るのじゃぞ!」
「だから、頭を使え!このタコの足を切ればいいだけだろ!!この状態は、結構辛いんだ!!」
私は、焦燥しきったまま莉子に対して、怒声を浴びせた。
「そう言われてものぅ」
莉子は困ったような表情で俯く。
「落ち込んでないで、早くしろバカ猫ーーーーーーーーーーー!!」
サクッ
闇鴉が、風を巻き起こし、タコの足を切断した。
「ああ…夜月か」
「二人とも、おもしろいね〜見てて飽きなかったよ」
闇鴉は、おもしろそうに笑う。
その態度にむっとした。
「見てたなら、さっさと助けろ」
「忘れてたよー」
その時、緑タコが巨大な姿を現した。
八本の足に、丸っこい頭……変な形の口……
「コオオオオオオオオオオ!」
タコは、目をギラギラさせながら、奇声を上げる。
私は懐から銃を取り出し、緑ダコ目掛けて発砲した。身体が巨大なだけあって、当たりやすいだろう。
ドン!!
銃声が鳴り響き、緑タコの身体に穴が開く。
山神が空から急降下してきて、タコの足に噛み付いた。
そして、食い千切ると山神は再び飛翔する───金色の獅子……その姿は神々しいとしか言いようがなかった。
闇鴉は、見物しているだけだ。
それを一瞥し、銃の札を別のものに張り替えると呪文を唱える。
「大地よ  答えよ   我に力を     」
緑タコを見据え、銃を向ける。
「退波!!」
銃の引き金を引くと、銃からは輝く衝撃波が放たれタコに命中するとそれは、弾けるように飛散した。
タコは怯み、けたたましい咆哮を上げる。
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
そして、足を乱暴に振り回す。
「!」
気づいた時には、至近距離にタコの足があり、大打撃を受けた。
「くっ……!」
さらに襲い掛かって来るタコの足を神速と言ってもいいほど猛スピードで現れた莉子が、刀で一閃し、その後は背後へ背後へ回り、
円を描くように華麗な斬撃を繰り返していた。
「千羅、大丈夫かの?」
一息ついた莉子は、落ち着いた口調で尋ねてきた。
「ああ……」
「ふう……それにしても、ちときついのぅ。最近は、身体を動かしてないからの。訛っているようじゃ」
莉子は、額の汗を拭きながら苦笑気味に呟く。
「あとは……私が───」
銃を続けて撃ち、タコの巨大な身体を打ち抜いていく。
タコは、しだいに弱ってきて呻き声を上げる。
そして鋭く目を光らせ、私の足にまたしても足を巻きつかせる。しまった、と思った時には遅い。
高く振り上げられ、地面に叩きつけられる。
「うっ!?」
かろうじで、起き上がり、銃の引き金を引いた。
「この……タコが!!」
ドン!
巨大な炎の塊が、銃から放たれ、空中で飛散しタコに降り注ぐ。飛び散った炎の軌跡は見とれてしまいそうなほど綺麗なものだが、
絶大な威力を誇り、タコの身体を焼いた。
山神が舞い降り、私の足に巻きついたタコの足を食い千切る。
「千羅殿、無事か?」
「ああ……」
疲れ気味でそう答えた時、目の前に闇鴉が舞い降りた。
闇鴉は、優しい眼差しをこちらに向け、私の頭を撫でる。
「良く頑張ったね、千羅ちゃん。後は僕に任せて」
「………」
闇鴉は、くるりと背を向け、タコに向かって歩いて行く。
「さて───そろそろ潮時だよ、緑タコさん?」
「キイイイイ!」
緑タコは、怒り狂っているようで奇声を上げ、足を闇鴉の腕に巻きつけた。
しかし、闇鴉は楽しそうに笑っていた。
「僕には、効果ないのになぁ」
そう呟くと、黒い風がタコの足を切り裂いた。
そして闇鴉は、風を巻き起こし、タコを切り裂く─────







                  ★







帰り道────空は夕暮れの赤い色に染まって、太陽は沈みかけていた。
田畑に囲まれた緑濃い道を歩いていた。
「ふー……終わったのぅ」
莉子がうちわで顔を扇ぎながら呟く。
「我は、タコがあんなに凶暴だとは知らなかったのだが……」
「いや、あれは妖怪だ」
「ホントに、あんなでかいの、食べられもしないから困るよね〜」
闇鴉が苦笑いしながら言う。
「ああ……」
私は、がっくりうな垂れた。料理の材料にならないからな、あんな不気味なもの……
ふと、闇鴉の背中を見据えた。
どうして、あんなに強いんだろう。そして、なぜ私は弱いんだろう。ああ、そうか……
気づく。私は、道士の力に頼りすぎていた。だから、力を失った今、こんなにも弱い……強く、ならなければ……
道士の力がなくとも…………
私は、天を仰いだ。

そして、妖怪共を追った。