複雑・ファジー小説

Re: 妖怪を払えない道士【第二十夜完結】参照400突破 ( No.98 )
日時: 2011/08/02 08:47
名前: 王翔 (ID: /cDu3FaZ)

第二十一夜 序章






月の淡い光が地上を照らし、気を抜くと暗闇のなかに溶けてしまいそうな夜────木々が生い茂る、まるで物語に出てくる迷いの
森のようなひどく暗く、気味の悪い森の中心に一人の青年と背に白い羽を生やした青年が立っていた。
羽のない青年は、青緑の髪に綺麗な森を連想させる緑色の瞳をしていた。
「さてと、そろそろいいだろ」
青年は、無邪気な笑みを浮かべた。
「千連党(せんれんとう)……本当に、いいのか?」
羽の生えた青年は、憂いを帯びた表情で尋ねるが、千連党と呼ばれた青年は笑顔を崩さず答える。
「ああ、お前のおかげで、もう一流の道士になれたしな。風白鳥───お前は、これからは自由に生きろ。俺なんかといるより、
楽しいことがあると思うぜ」
「しかし───」
千連党は、風白鳥の背中を叩く。
「俺はもう、大丈夫だって」
「本当なのか?もう、寂しくないのか?」
風白鳥は、心配そうな面持ちで問うた。
千連党は、早くに親を亡くし、孤独だった。うまく人と接することができずに一人ぼっちだった。だから───妖怪と友人になることで
寂しさを埋めていた。
風白鳥には、立派な道士になるためと、力を借りることにした。
今の千連党は、以前とは違う。
「もう大丈夫だって。お前と接してるうちに人とうまく話せるようになったしな」
「そうか」
明るくなった。少々明るすぎる気もするが……
「あとさ、俺……結婚するんだ」
千連党は、嬉しそうに告げた。
風白鳥はズキリと胸が痛む感覚を覚えた。
「相手は───」
「羅宣(らせん)だよ。うん、あれは、いい子だよ。きっといいお嫁さんになってくれるだろうな。それに、可愛い子供が生まれると
思うぞ」
「そうか……」
風白鳥は、内心──千連党に嫉妬していた。自分も、羅宣が好きだから。けれど、千連党もまた、大事なパートナーだ。
嫌いにはならない。二人を穏やかに祝福できる。
「そうか、きっと幸せになれるだろう」
にこりと微笑んだ。