複雑・ファジー小説
- Re: スピリッツ (戦争鎮圧編) 第27話更新! ( No.43 )
- 日時: 2011/08/03 20:49
- 名前: ベクトル (ID: j553wc0m)
第28話 「オメガ」
・・・静かだな。
何もない・・・誰もいない・・・
ただ、真っ白な世界。
いや・・・・誰かいるようだ。
二人組。おじさんとおばさん。
遠くて顔はぼやけるけど・・
・・・なんでだろう。
俺は・・・この人たちを知っている。
でも・・思い出せない。
あの事件のショックで・・・
記憶を失ったせいで。
でも・・・なんとなく感じる・・。
俺に大切なことを教えてくれた気がする・・。
俺に大切なものを与えてくれた気がする・・。
俺にとって大切な人だったような・・・・気がする。
そう考えていると・・・遠くにいるおじさんの声がした
誰よりも自由に生きろ・・・・
お前が信じる道がどんな道なのかを・・・
・・・俺たちは楽しみに待っているぞ。
あんたたちは・・・・まさか・・・・。
「・・・うっ・・・。」
アキトはゆっくり目を開ける。
そこは、光がまぶしい世界。
思わずまた目を閉じてしまう。
「アキト!!!」
声がしたので、アキトはゆっくりと目を開け、辺りを見る。
どうやら、エアロバードの中で、医務室みたいだ。
声がするほうを見ると、リフィルが涙を流しながら、
「・・・よかった・・。よかった・・・。」
アキトをギュッと抱きしめる。
「リフィル・・・少し・・・痛む。」
アキトは包帯を巻かれた右肩をおさえながら言う。
「えっ・・・あ・・ごめんね。」
涙を拭いて、そっと離れるリフィル。
「アキト、大丈夫?」
セリアは心配そうに尋ねる。
「・・・問題ない・・。」
「そう・・・無理は禁物よ。あなたをここまで運んできたリフィルに後でお礼を言っておきなさいよ。」
セリアがそう言うと、アキトは申し訳なさそうに、
「・・そうか。すまない・・・リフィル。」
軽く頭を下げて言う。
「だ・・大丈夫だよ!! 気にしないで。」
「・・・恥ずかしがり屋さんね。リフィル。」
そう言って微笑むと、セリアは近くに置いてあったオメガを手に取り、手渡した。
「はい。一応洗っておいたわ。血でベットリだったから。」
「・・・すまない。」
アキトはそう言い、オメガを受け取る。
「少し疑問に思ったんだけど・・・それはどこで手に入れたの?」
セリアは尋ねると、
「・・・分からない。」
と、首を振って答える。
「ただ・・・名前だけは憶えてる。はっきりと・・。」
「・・・自分の名前よりも?」
「・・ああ。」
アキトはうなづく。
「これは・・・オメガは俺にとって大切なものだ。・・・俺自身よりも。」
「・・・そう。」
セリアは微笑んで言う。
「それがもしかしたら・・・記憶を取り戻すカギになるかもね。」
「・・・だといいが・・。」
リフィルの言葉に、自信なさげにアキトは答える。
「今日はゆっくり休みなさい。回復するまでは、しばらく待機よ。」
「・・・了解。」
セリアは医務室から出て行った。
「リフィルは・・・行かないのか?」
「ふえっ・・!? え・・あ・・。」
顔を赤くし、もじもじとするリフィル。
「わ・・わたしは・・・まだ・・そばにいる・・。心配だし・・。」
赤くなって恥ずかしがっているリフィルを見て、アキトは一瞬首をかしげるが、すぐに首を戻して、
「・・・すまない。リフィル。」
そうつぶやくとリフィルはさらに顔が赤くなり、下にうつむいた。
あの二人は・・・結局誰だったんだろうか・・。
でも多分・・・あれは俺の大事な「記憶」。
いつかは・・・思い出したい。
俺の・・・大切な過去を。