複雑・ファジー小説
- Re: あたし・事件簿(即興短編ものがたり) ( No.19 )
- 日時: 2011/08/31 22:05
- 名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: 3rk1V4I1)
あたしは動けなかった。
……違う。
本当は 動けなかった……のではない。 “動かなかった”。
密室にされた保健室で こんなコワモテの二人の男の子にせまられて いくらなんでも逃げだせるワケがない。
頑張って抵抗したって よけいに彼らを喜ばせる結果になるだけだ。
あたしなんか もうどうなっちゃってもいい……と 諦めた。
「あっれー? どーしちゃったのカナ〜 佐倉ちゃん?
え〜? 予想外だなァ……。 泣き叫んで暴れてくれると思ったのに。
……まァ そんなコトしても ムダだけどネ。」
タバコくさい息をあらくして いやらしい顔でにじり寄ってくる牧野くんに あたしは冷たい視線をおくった。
本当はものすごく怖い……。 布団から出した強気な顔とは反対に、布団の中のあたしの体はビクビクと震えている。
もし この今の状態が 漫画とか小説の話だとしたら どこからともなくカッコいいヒーローが突然やってきて あたしを助けてくれるにちがいない。
「おい 牧野。 何ジラしてンだ。
……はやくヤれ。」
ズボンのベルトを外しながら 滝沢くんまでベッドにあがってきた。
甘かった……。 世の中そんなにうまくデキているワケがない…………
「クソッ! この女……ナメくさりやがって!
まァ どうせ強がっていられンのも今のうちだけだがな…………
……じゃあ お望み通り 親父さんがいる天国を一瞬だけ見せてやるか。
…………俺たちがな!」
「!!」
…………————このあと ここで何かが 起こった。 確実に 何かが……起きていた。
それが何なのか……あたしはまだ わからない…………
「あ……れ?」
さっきあたしの体を 手と足で強くがんじがらめに縛っていたはずの牧野くんが ベッドの上から消えている。
……滝沢くんもいない。
(夢……だったのかな……?)
ボサボサに乱れた髪の毛を手ぐしで整えながら、あたしはゆっくりと深呼吸して、自分の体に目をやった。
セーラー服の上は……ちゃんと着ているし……
スカートも はいている。
……スカートの中に手を入れて確認した。 ……パンティーもはいている。
とりあえず(たぶん)牧野くんたちに何もされていなかったことにホッと胸をなでおろし、あたしはベッドから足をおろした。
すると あたしの足に 何か柔らかいものが触れた。
「……ヒィィィッ!!」
「!!」
突然 その“柔らかいもの”が いきなり何かにおびえるような叫び声をあげた。
あたしは背中を前に倒して おそるおそる“それ”に目をやった。
…………牧野くんだった。
彼は まるで人の手につかまれて丸くなったダンゴムシのように小さくなり……大きく背中を震わせている。
「……こっ! こっちにくるなぁ……ッ!!
はやく出ていけえッッ!!」
……いったい どうしたのだろうか……。 信じられないことに“あの”牧野くんが声まで震わせている。
「牧野ッ……おいっ! どうしたんだよぉっ……
……ヤるんじゃなかったのか!?」
牧野くんのわきに滝沢くんが ズボンをさげ、トランクスまるだしの情けない格好で両ひざをつき、オロオロしている。
(逃げるなら…………今だ!!)
あたしはベッドからおりた。
「!」
さっき 滝沢くんが閉めたはずの窓がなぜなのか…………ぜんぶ開いている。
たしか今は二月……のはずなのに……いくら昼中だとはいえ 窓の外から春風のようなやわらかく温かい風が入りこみ、やさしくあたしを包みこんだ。
今 こんなことをしている場合じゃないのに あたしは目をつむり、両手を横にひろげて風を感じていた。
愛を感じる……この風は……もしかして…………
————あたしは やっと気づいた。
さっき 頭のなかにではなくて、ここに…………お父ちゃんを呼びだしていたことに…………
「……いちこ。」
「!!」(…………お父ちゃん!!)