複雑・ファジー小説
- Re: あたし・事件簿(即興短編ものがたり) ( No.8 )
- 日時: 2011/08/11 23:54
- 名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: OeKIzsMq)
「お父ちゃん……大好き。」
事件ファイル・2>お父ちゃんの影
「俺が思うに 絶対おまえ……
…………一生 結婚できねぇと思うぜ。」
————あたしの通う学校。 今は休み時間。 ざわついた教室の中で 一人ポツンとあたしは自分の席に座り、図書室で借りてきた本を読んでいた。
あたしの後ろの席から スッと手を伸ばし、あたしの(せっかく朝 ムースでカチッとキメてきた)髪の毛を触りながら いじわるなことを言ってくる男の子がいる。
彼の名前は……加藤壱茶(いっさ)くん。
いつも なにかにつけてあたしのことをからかっておもしろがっている……いやなやつ。
彼が今、どんな顔をしているかは だいたい想像がつく。 ……ここで振り返って怒ったら 彼の思うツボだ。
あたしは振り返らずに そのまま本を読んだ姿勢で彼の手を払いのけた。
「たとえ おまえが結婚できたとしても……
……きっと相手は そーとー歳の離れたオッサンだろーなー……
ハハ。」
まだ こりずに再び あたしの髪の毛を触ってくる彼……。
(しつこいし……)
「この前 見たぞ。 おまえが親父さんとベタベタくっついて……真っ昼間の公園で 手をつないで歩いてたとこ。
……ありゃあ どー見ても異常だって……。」
(うるさいっ!!)
ガタッ。
あたしの後ろで椅子をひいた音と同時に加藤くんの気配が、あたしの耳のそばにゆっくりと近づいてきた。
「……なァ 佐倉……
もしかして おまえら親子……近親……」
「!!」
我慢ができなくなったあたしは 後ろを振り向いて加藤くんをおもいっきりにらみつけた。
彼はニヤニヤと笑みを浮かべて あたしの顔を見ている。
歯を噛みしめ、あたしは右腕をあげた。
キーン コーン……
彼のほおを平手打ちする寸前で 始令のベルが鳴りだし、教室に先生が入ってきた。
————仕事に出かける前に いつも優しくあたしのおでこにキスをしてくれるお父ちゃん。
15歳になった今でも あたしはお父ちゃんと毎日一緒にお風呂に入ってる。
友達は そんなあたしのことを“おかしい”だなんていうけれど……どうしてなのか分からない。
だって……お父ちゃんのこと 大好きなんだもん。
あたりまえでしょ……?
————その大好きなお父ちゃんが……ある日 あたしの目の前で 倒れた。
原因不明の病で……突然……
…………そのまま帰らぬひとと なってしまった……。