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複雑・ファジー小説
- Re: ヒトクイジンシュ! ( No.3 )
- 日時: 2011/10/19 20:32
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: QwdVpVQe)
彼は『それ』を担ぐと、ただただ帰路を辿り始める。 家は見えている。 そんな距離があるわけでもない。
目測で、300メートルといったところだろうか。 その間に、まるで当然とでも言うべき様子で建造物の陰はおろか、街路樹一本すらなく木陰も無い。
いっそう、汗が噴出す。 だが、彼は歩みを止めない。
まるで、何かに惹きつけられるかのように。 一歩、また一歩と歩みを進める。 そして、ようやく到着した。
田んぼに囲まれた中の、小さな一軒家。 高校入学と同時、家族の転勤が決まり彼だけがここに残った結果。 今がある。
軽く脱水を起こしながら、感覚のハッキリしない手で、ポケットを探る。 鍵を取り出し、戸に差し込んで回す。
「あー……暑い……」
背負っていた“それ”を玄関に下ろすと、彼は家の中に駆け込んでコップを手に取り、小さな冷蔵庫から製氷皿を取り出し出来かけの氷をその中に流し込んだ。
薬缶に残っていた麦茶をそこに注ぎ、再び玄関へと戻る。 持って来た麦茶を、彼は“それ”の額に押し当てた。
少し、“それ”は安堵の表情を浮かべ、商店の定まらない視界を無理にこじ開ける。 だが、“それ”は再び糸の切れた人形のように動か無くなった。
……死んだか? いや、息をしている。
彼は麦茶をその場で飲み干すと、再び家の中に駆け込み、今度は小さなレジ袋を二つ重ねてその中に、残っていた製氷皿の氷と水道水を流し込んだ。 ちょっとした、氷嚢もどき。
タオルで包み、玄関に横たわっている“それ”を家の中に運び込み布団を敷いて仰向けに寝かすとその額に氷嚢を乗せる。
何だろう、凄い疲労感。 夏の日差しが、とても恨めしい。
朝起きてそのままだったカーテンを閉めると、彼は扇風機の電源を入れた。
節電なんて、知った事か。
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