複雑・ファジー小説

#01 - 過去の絆 ( No.12 )
日時: 2011/09/23 09:44
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

「雑用が居ないから私がアイス持って来たのよ。主に舞雪の為にね。はい」
「あ、ありがとうございます!」
 
流が舞雪さんにアイスキャンディを渡すと、舞雪さんは顔を紅潮させてそのアイスを受け取った。
 流の言葉に嫌味だなあ……と感想を持っていると、流が僕にアイスを渡す。と言うより乱暴に投げられた。
 だがまあ、アイスを持って来た分、幾分マシだとは思う。例えば今みたいな、流の部屋に居る事で、僕がアイスを持って来れないから仕方なく流がアイスを持ってくる場合——とんでもない物を持ってくる。
 持って来ないの選択肢ならまだしも、虫とか幽霊とかとにかく僕の嫌いな物を持ってくるのだ。カブトムシの幼虫アイスとかは悪質な嫌がらせどころの話ではなかった。流に訊くと、あれは自分でも気持ち悪いと思ったらしい。ならやらないでくれ。
 アイスを開けてかぶりつく。幸せな一時だ。美少女に囲まれてアイスを食べる夏……リアル充実しすぎだ! 流と僕はどんどんアイスの量が減っていくが、舞雪さんは未だにアイスを開けていなく、自身の後ろに置いていた。あれ、後から食べる方なのかな。変な雪女。とか思っていたが、それは勘違いだった。そもそも雪女がこの世界に慣れている筈無かった。
 舞雪さんはアイスをちらちら見て、そしてアイスを手に取り、開けようと色々引っ張ったり試すが、開かない。それを見る事数回。流は溜息を吐いて、開けなさい、と僕に指示を出す。僕は手伝おうかと声を掛けたが、拒否される。
 
「触るな。お前は嫌いって、さっき言った」

だと。僕を睨んで、嫌悪感を醸し出して。相変わらず僕を嫌う様子の舞雪さん。そろそろ僕は傷つきそうだ。デリケートマイハート。
 流は再度溜息を吐く。いやまあそりゃそうだよな。そして溜息の後に舞雪さんのアイスを奪い取り容易く開ける。舞雪さんは驚いて暫く口をぱくぱくと動かしていると、流は舞雪さんにアイスを差し出す。

「魚みたいよ? その顔」
「……っえ、艶術士様にそんな事……!」
「アンタ、零を毛嫌いしてるんだもの。アンタ自身でそれも開けられないし。誰がそのアイス開けるのよ。そうしてる内に溶けるわよ?」
「申し訳、ないです」

アイスを差し出したままで流はそう言う。確かに、数分間冷蔵庫の外にアイスを出していたらあっと言う間に溶けてしまう。僕らが普通に暮らしている温度であれば、既に溶けている。しかし、流が舞雪さんの為にクーラーをできるだけ下げていたのでまだアイスは溶けていなかった。その代わり僕と流は布団を被っている。
 頭を下げてそのまんまの舞雪さん。どんだけダメージ受けてるんだ。ずっとアイスを持って舞雪さんを見ている流が、またはあ、と深い溜息を吐き出す。 

「アンタ、いつになったら私の手からアイスを取るの?」
「あ、申し訳ありませんですっ!」

言われて光の速さで流の手からアイスを取り、そしてかぶりつく。流はその速さに驚いて目を見開いている。僕も驚いている。本当、流の事を慕っているんだなあと僕はちょっと尊敬する。こんなぐだぐだしている老人に敬えないなあ、と僕は思った。