複雑・ファジー小説

#01 - 過去の絆 ( No.13 )
日時: 2011/09/23 09:45
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 舞雪さんはアイスを食べると、顔を綻ばせた。そんなに美味しかったのだろうか。まあ喜んでいるなら何よりだ。別に僕が何をしたと言う訳では無いけども。それよりしかめっ面でこっちを向くよりはいい。美人だしな。
 舞雪さんがアイスを平らげた後、僕はゴミ箱をベッドの下にある黒のゴミ箱を差し出す。舞雪さんは、アイスキャンディの棒を、アイスに入っていた袋に入れてゴミ箱に捨てる。容姿のイメージと同じく捨て方が丁寧だなあ。

「美味しいなら良かったわ。それで、用件は何かしら? 貴方、客なんでしょ?」

布団に包まったままの流が質問をすると、さっきまで嬉しそうにアイスを食べていた舞雪さんは目を閉じて俯いた。暫くの静寂が続く。
 何だか気まずい……。こんな所に居たくないな、と僕が思っていると、舞雪さんは姿勢を正座にして口を開いた。

「————時を、戻してくれませんか?」

丁寧に座り、流を見つめて、そう懇願する舞雪さん。重苦しいその雰囲気は、とんでもない事が起こりそうだった。


 妖怪は、どこにでも居る。しかし、どこにも居ない。一度視えたらずっとそこに『居る』のだ。そして関わってしまうとそれが視え易くなる。関わり易くなる。だから僕は、また妖怪と出会っているのだ。まあそれはともかくとして。今回は雪女の依頼である。雪女——舞雪さんの話を聞いてみよう。

「私には、友達が居ました」

静かに、悲しげに。そう自分の過去を語りだした。

 
 青葉が茂る、山の奥。そこにはゆかり姫と言う山の姫が居た。縁姫は絶世な美女と謳われており、視た人間は全員その美貌に惚れ惚れしたらしい。しかし、美しい花には棘があると言う言葉がある様に、縁姫は人間を嫌い、出会った際には人の血を全て吸い尽くして人を殺す。そんな恐ろしい妖怪だったらしい。
 だがそんな縁姫でも、自分の種族——妖怪には優しかった。誰にでも優しく、誰にでも笑う、素敵な姫だった。どの妖怪からも好かれており、そして舞雪も例外ではなかった。舞雪も縁姫を好いて、縁姫も舞雪を他の誰より好いていた。