複雑・ファジー小説

#01 - 過去の絆 ( No.18 )
日時: 2011/09/23 09:48
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

「縁、遊びに来た……」

襖から覗く様に、顔だけ出して舞雪は言うが、その光景を見て言葉をつまらせる。そして、呆れ気味に溜息を吐いた。
 その光景とは、縁が村の人間の血を吸い尽くしている途中の光景だった。縁は人間を毛嫌いしており、目が合っただけでその人間は縁の体の一部となる。血を吸い尽くして殺すのだ。手から、首から。あらゆる所から人の血液を吸い出す。
 縁はもう既に死んでいるであろう人間の口から自身の口を離して舞雪を見ると、舞雪に駆け寄った。

「舞雪! 久しぶりね! もー、暇で暇で仕方なかったから人間漁りに行ってたのよ。そしたら『妖怪だ!』なーんて面白くもないしかめっ面で私に銃を向けるのよ。どうせならもっと素敵な顔になるかもっと変な顔にしなさいよね、全く!」

と。舞雪の顔を見るなり一気に話し出した。綺麗で、淑やかな彼女は、口を開いてしまえばその雰囲気もぶち壊しである。どちらかと言うとお転婆で、元気な少女の様だった。
 相変わらず愚痴を楽しそうに零す縁。そんな縁の話を舞雪は苦笑しながら聞いている。 
 
「ところで、舞雪は何があったの?」

ようやく自分の話を止めると、舞雪に訊ねた。舞雪は、白く長い人差し指を頬に当てて思い出す素振りをする。そして一生懸命になって考えて、口を開いた。
 
「ここで、忘れちゃった! と私じゃない様に可愛く言ったら?」
「つーまーんなーいー! って駄々をこねちゃいます」

縁の返答を聞いた後、数秒舞雪は黙る。そして、声にも顔にも表情を込めずに言う。

「忘れた」 
「はーあ、予想通りよ。でもつまんないからとりあえず何か話して頂戴」

 わざとらしく溜息を吐いて舞雪に無茶振りする。舞雪は何か話題は無いものかと辺りを見渡す。すると、横たわっている男の死体に目を向けた。そして、声を漏らす。何に反応を見せたのか気になった縁は、嬉しそうに訊ねる。

「何、何があったのよ、舞雪」
「ソレ、見た事ある、様な……」

人指し指で死体を指して、詰まり詰まりの言葉を口から零し、何らかの恐怖に怯える舞雪。縁はああ、と相槌を打って、冷たい視線でその死体を見つめる。

「どこかで会ったんじゃないかしら? そこまで怯える必要は無いわよ」

 冷たい深緑の瞳は、死体を一瞥しただけだった。