複雑・ファジー小説

#01 - 過去の絆 ( No.19 )
日時: 2011/09/23 09:50
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

「そうね、たかが人間、だもの」

それが何なのかである事を否定する様に、舞雪は作り笑いを浮かべて言葉を吐き出した。
 そんな舞雪の姿を見た縁は、気遣う様にして舞雪の手を引いて、木でできた艶のある廊下を駆け出した。

「え、ちょっと……縁?」 
「喉渇いたから、お茶にしましょう?」

縁のいきなりの行動に戸惑う舞雪だが、縁の笑顔を見て、その顔は柔らかい微笑みを浮かべた。
 
「うん」

微笑みを浮かべたままで、舞雪は頷いた。
 廊下を駆けて、庭へと移動する二人。縁の名に相応しく、沢山の緑の植物が植えられていた。緑以外にも、赤、青、紫、黄色。色とりどりの花が緑の景色を鮮やかに彩っていた。
 
「そこの使用人さん、柚子茶持ってきて頂戴」
 
花の手入れをしていた使用人に、縁はそう命令する。使用人はその言葉に会釈をしてその場から去った。
 他の使用人も、二人に遠慮してかもう既に居なくなっており、庭を見ているのは舞雪と縁の二人だけだった。
 縁は、その場に座り込む。それを見て、舞雪も少し遅れて座り込んだ。

「遠慮なんかしなくたって、いいのにねえ」
 
縁は、先程の使用人が向かった先を見つめて、つまらなそうに言った。人間に対する冷たい態度ではなく、いつもの縁の姿に舞雪は安心しながらも、苦笑する。

「あ、ところで舞雪。さっきの人間との関係はどういう事?」
「さっきの……記憶にはないけど、多分あれ、生きてる筈……死体なのに、変な気があったから」 

俯きながらまた途切れ途切れになって説明する。その言葉を聞いて、縁は「嘘!」と、声を荒げて驚く。暫く沈黙が続くと、使用人が柚子茶と団子などの茶菓子を二人のもとへ持ってきた。縁は使用人に「ありがとう」と、顔を向けずに言い、それを聞いて使用人は会釈をしてその場から去った。
 完全に誰も居なくなり、二人だけとなった庭。縁は柚子茶を口に付けて、庭の花を見て話す。

「……舞雪がそう言うのなら、きっとそうね。警戒しておく」
「多分あれは、檻の中に入れていた方が良いと思う」
 
 妖怪、人間、この世の生物は、全ての可能性を持っている。それが多いか少ないのかだけの話で、無い訳はないのだ。
 舞雪も、その一つの可能性を持っていた。雪女としての雪を操る力は勿論——生物の気を視る力も。