複雑・ファジー小説

#01 - 過去の絆 ( No.20 )
日時: 2011/09/23 09:51
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 舞雪の持つ生物の気を視る力は、雪女が当たり前に持つ、雪を操る力と同等な位に強かった。
 偽善者は、善を偽ろうとするから悪意が見える。偽善者の悪意を視る位なら、普通の人間にも視れる人は居るだろう。
 しかし、善者の中に潜む一パーセントの悪意は見えるのか。普通の人間なら、無理だ。だけど、生物の気を視る力が強ければ、その悪意は見抜ける。他人が見てる気だから、多分という曖昧な形なのだが。
 舞雪はそんな曖昧な能力を持っていた。それも、強力な。だから、縁が殺した筈の男の死体の違和感にも気付いたのである。とは言っても、死体には何も無いから違和感を見つけるのは人より比較的簡単な事である。

 男の話の後は、遊んで、喋って。重苦しい話など無かった事にして、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。 

「じゃあ、縁。今日はありがとう」
「うんうん、ちゃんとあの男については警戒しておくから大丈夫よ」
「よろしく」

 空は夕暮れ。雲は夕日の色に染まり、辺りの木も橙に彩られていた。
 二人はお互いに手を振り、舞雪は帰り道に背を向けた。舞雪の後ろ姿を縁はじっと見つめ、大声をあげる。

「また来ないと駄目よー!」

舞雪はその大声に驚いて目を見開く。そして笑みを浮かべて、大声をあげた。

「分かってる!」


「…………私は縁に、また遊びに来る事を約束したんです」

今までの話を聞けば、まだ何も起こってない。むしろ舞雪さんと縁さんの青春の一ページの様な、明るい話なのに、舞雪さんはずっと悲しそうな顔をしていた。ずっと重苦しい雰囲気。僕にとって、息苦しい雰囲気だった。 
  
「ふうん、それで?」 

流が話の続きを訊き出す。舞雪さんは「はい」と間を置いて、また話し始めた。

「私は後日、縁の所へ遊びに行きました——」