複雑・ファジー小説
- #02 - 結びなおす糸 ( No.21 )
- 日時: 2011/09/23 09:54
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
#02 - 結びなおす糸
空は曇り空。風が強く、木は激しく揺れる。舞雪は植物の蔦が巻きつかれている、立派な屋敷の門に立ち、空気の違和感を感じ取りながら、屋敷を見上げる。
「静かな空気……」
不安を口に出して、屋敷内へと入る舞雪。数分歩いた後、いつも通りに使用人が舞雪を笑って迎えてくれた。舞雪は使用人に会釈して、そのまま屋敷内を歩く。使用人と少し距離があくと、舞雪は安心したのか、溜息を漏らした。
しかし、人を見つけても、相変わらずに空気は静かだった。さっき安堵の溜息を吐いた筈なのに、冷たい空気でやはりまた不安が芽生える。人を見つけては安堵し、人が居なくなると不安の繰り返し。舞雪は多少疲れている様だった。
暫く歩いて、縁の部屋に着く。舞雪は唾を飲み込み、障子を開けると——そこにはいつもと違う縁の姿があった。
「どうしたの、縁!」
心配そうに縁の元に駆け寄る舞雪。
痩せこけて、皺だらけの美貌を失った縁の体は、あの時の死体に寄り添い、もう皮だけしかないであろう体に血を求めていた。確実に死体となったその男に、縁は縋っていた。
舞雪の声に気付いた縁は、鋭い、憎悪を込めた目で舞雪を睨む。鋭い棘のついた視線を向けられた舞雪は、硬直する。威圧感。今まで、舞雪に接してきた様な態度ではなかった。それはまるで————。
「驚いてる、の?」
人間に向ける様な、冷たい態度。
響く高らかな嘲笑。舞雪は驚愕し、そして恐怖する。他の人は全く変わらないのに、縁だけ、たった一人変わっている事に。
「あはははははっ! 舞雪。アンタ、勘違い。私が変わったんじゃない、アンタが変えたの。そして私だけじゃないわ。皆、変わってるのよ?」
障子の向こうを指差して、縁が、変わらない、いつも通りの笑い声をあげる。笑い声は変わらないのに、その笑みは、歪んでいた。舞雪は、縁が指差した方向を見る。
それは、色とりどりの花が舞っている。花びらは、舞雪に向かって飛んできた。
「私の意思の分、その花びらは何よりも強く、硬く、鋭くなれるのは、知ってるでしょ?」
縁の使用人は、全て縁が植物から生み出した物である。そして、縁の能力は、山姫の名の通り、植物を操る能力。縁は植物を武器にする事も、盾にする事も、簡単な事だった。