複雑・ファジー小説

#02 - 結びなおす糸 ( No.23 )
日時: 2011/09/19 15:32
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

「その後で、私はあなたと出会ったのね」

流の言葉に、舞雪さんは小さく頷いた。
 
「そして貴女に助けてもらいました」
「私は助けた覚えはないけれど」

ベッドから立ち上がり、舞雪さんを嘲り笑う様に言葉を放ち、そして部屋から出て行った。
 自然に二人きりになった僕と舞雪さんは、喋る事もなく、ただただ気まずかった。……流が居なくなるだけでこんなに気まずくなるとは、思ってもいなかった。
 舞雪さんは辛い過去を語ったからか、どうやら落ち込んでいる。今、縁さんはどうなってるんだろう。裏切ったのはおそらく舞雪さんでもないし。あの魔道士が許せないな……。
 勝手に舞雪さんの辛い過去をどうにかしてやろう、と半分だけ思い、考える。でも、僕が舞雪さんと縁さんを助けるっていうのは、失礼にも程がある。分かったふりだけで、舞雪さん視点の話しか聞いていないのに、助けるだなんて、傲慢だ。
 でも、助けられるなら助けたいよなあ——。僕の善が、僕を哂った。

「零」

僕の首を冷やす何かと流の声に、僕は驚いた。
 
「……なんだよ、驚いたじゃねえか。で、またアイス持ってきたのかよ。いらねえよ」

もう十分に寒いし。布団被ってても冷気が襲って、僕のチキンスキンがぶわぶわぶわと、姿を見せている。結構前から。

「駄目よ、食べなさい」
「何があって強制されてアイス食べないといけないんだよ!」
「いいから食べなさい」

手に持っていた銀のスプーンで僕を脅迫してきた。と言うかスプーンで人を脅せるのが凄いな。流だったらスプーンで人を殺せそうな気もするんだけどさ。

「スプーンって事は、今度はアイスクリームか?」
「いいえ、シャーベットよ」
「アイスより頭が痛くなりそうだ!」

僕と流がどうでもいい会話を交えているその間にも、舞雪さんは俯いて暗かった。僕と流の空気は軽すぎるのに、舞雪さんの空気は何か重たかった。黒かった。鬱だった。

「舞雪」

その流の声は、優しく笑うものでもなく、厳しく叱るものでもなく。ただただ、無表情で、無機質。飴をあげる訳でもなく、鞭を振るうわけでもなく。何も渡さず、目の前を諭す。

「このシャーベットは、ずっと前に、あなたに貰った雪から作った物よ」

流は、シャーベットの製造工程を、舞雪さんに話した。