複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章九話完成 ( No.100 )
- 日時: 2012/02/14 20:48
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rtUefBQN)
三章十話 かくれんぼpart2
「貴様らが楓秀也と氷室冷河か。不必要な者が二人も来たがまあ良い。儂の名はDeath、覚えておけ。『D』の称号を冠する幹部の一人じゃて」
「D……イグザムよりも上の階級……!」
以前散々苦しめられたイグザムの事を思い返す。基本無邪気な子供なのだが愉しむことにかけては貪欲で、冷酷さも否めない我儘な少年。しかし見かけに反して頭は回り、鬼ごっこの時には死の瀬戸際まで持って行かれた。
そして楓は目の前に立つ髭を蓄えた老人を見て思う。あのイグザムよりも上に位置する、つまりは頭が周る。イグザムから逃げ切るだけでも精一杯だったのに、それ以上が出てきたらもう……。でもそこですぐに現実に帰る。よくよく考えてみるとついこの前にクリアしたかくれんぼは最も上級のアダムのげえむのはず。それを生き抜いたのなら何とかなる、そういう事から安堵の溜め息を吐き出した。
ただしそれを見てすぐにDeathは別の理由から溜息を吐く。どうしようもなく蒼く幼い少年を見下すような雰囲気。そのまま老翁は語り始める。
「貴様らはアダムの使者を少し間違えている。階級が上がれば神通力は強くなるが賢くなる訳ではない。ああ、軽く貴様らの心を読むことだってできるぞ、儂には」
「なるほど、プライバシーもへったくれもねえな」
「フムゥ……神とは全てを見通さないといけないからのう?」
「御隠居が言ってくれるわね。じゃあ、ヴァルハラの使者正体でもあたしたちに教えてくれないかしら?」
それはどうしたものかと翁は髭に手をやる。ヴァルハラについての情報を渡すか示唆しているようだ。順当に考えるならば何も言わないだろう。だが、相手は腐っても神であり、何かしら策があって吐いてくれるかもしれないと氷室は考えた。
どちらに転ぶかは全て白髭の彼の采配一つだ。散々顎の辺りを弄った後についに決めたようで頷いた。
「ヴァルハラの使者と言うのはじゃな、聖域“ヴァルハラ”に使える者だ」
「ちょっと、答えになってないわよ」
「別にヒントはこれで充分じゃろうて。楓秀也の方は分かっているだろうに」
やや不機嫌そうな目で楓を睨むように見据えた氷室はそちらに寄った。知っているのかと耳打ちするとあっさりと肯定を示す。ただし、何かに体を震わせて、おずおずと。
スッと彼女は目を細める。鼻で笑いながら踵を返し、アダムの使者の方と対峙する。
「で、次はどんなゲームなのよ?」
「今回はそこまで本気ではない、余興じゃ」
「へえ……暇つぶしに命賭けてあげられるほど私は優しくないんだけど?」
「気にするな。今回のげえむはかくれんぼじゃ。アダムの考えたちんけな割に時間をかけるものとは違うぞ」
「ふーん、芸が無いからちょっとルール変えただけなんじゃないの?」
「それは耳が痛いわい」
一本取られたと、老人は肩をすくめる。その様子にも注意を払い、ほんの欠片であっても集中力は落とさない。普段ならば楓もそうしている、でもその日はそんなに余裕がないので、気を配らせていたのは氷室一人だった。
そういう、傍らの男が注意力散漫なままに氷室はルールを聞き始めた。今回のかくれんぼは鬼から逃げ切ったら勝利。それもたった五分間の間だけ。しかし逃走範囲は高校の敷地内のみ。
なお、面倒だから神田ともう一人の男子は、別空間に幽閉してあると言う話。直に現世に返すらしい。
五分後、鬼を放つと言う。鬼に見つかったらではなく鬼に噛まれたら負けらしい。基本的にこのげえむというのは命を賭けるものなので、きっと鬼は猛獣の類。
「鬼は結局何なのよ?」
「キングコブラ、そう言われているな。それが一気に五百匹ほど校門から放たれる」
さあっと、二人の顔から血の気が引いていく。そんなことはお構いなしにDeathは、後五分で始めるぞと真剣な口調で言う。命とは決して軽々しいものではない、それは分かり切っているのか、アダムのように茶化すようなことはなかった。
でも、何度も言うように、今日の楓は、げえむなんてできるモチベーションではない。もう死んだって良いんじゃないか、そういう低すぎる感情がドロドロとしていて、氷室をさらに苛立たせる。
「楓ぇ……あんた本当に何してんの?」
「ごめん、でも……何も考えられないし、体だって動かないし……」
「だから、何ふぬけたこと言ってんのよ?」
「分かってるよ、ダメだってことぐらい。最悪、お前の盾にでもなってやるから、このままそっとしてくれ」
「アンタねえ……ふざけるのも大概にしなさいよ!」
楓の耳元で血相を変えた彼女は怒声を飛ばした。一瞬、ほんの一瞬楓は表情を変えて驚いたがすぐに普通に戻り、瞳には深海のような暗黒が戻る。
「アンタ……楠城さんと最初にコンタクト取った自分を覚えてる? 銃で撃たれて、怪我したあの人を助けたのはなんで? 誰かが死ぬの、嫌だったんでしょう? 今の私の気分、察しなさいよ。楓が死んで、良い訳無いだろ!」
どこかに行ってしまいそうで、それが怖くて、だから離れてしまわないように楓の腕を掴んで氷室はそう叫んだ。その目には一切の卑下の感情はこもっておらず、どう見ても仲間思いで、竹永に似ていた。
竹永と氷室の姿が重なり、楓は少なからず動揺する。そもそも氷室が自分が死んで良い訳無い、そういう風に言ってくれるとは微塵も思っていなかった。
「ごめん……少し反省した?」
「どう? 頭の調子は」
「いつもほどじゃあないけど」
眼は覚めた。仮初めで、その場限りに終わったのだが、確かな眼光はそこにあった。
続きます
__________________________________________________
遅れてほんっとうに申し訳ありません。
次回、普通にかくれんぼ終わります