複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章十話完成 ( No.103 )
日時: 2012/02/20 20:38
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)

三章十一話 ヴァルハラの使者の正体




「時間無いわよ、隠れる場所の候補は上がってる?」
「ねえよ、今から考える」

 今から考えると楓は宣言したが全く当ては無かった。そもそも鬼は五百匹もの蛇。逃げ切れる訳はない。かといって下手に隠れた所で多勢に無勢、すぐに見つかるだろう。コブラについては彼は良く知らないが、蛇ならばピット機関ぐらい持っているだろうと踏む。
 ピット機関、わずかな温度差も感知する蛇の素晴らしき性能。それにより獲物の居場所を暗い所でも察知する。
 だとすると蛇から隠れるとか、逃げるなんて考えてはいけない。不可能だからだ。ならば蛇が絶対に来れない所に向かうしかない。
 だがそんな場所が都合よくそこいら、しかも学校の敷地内に存在しているかと言えば答えは多分ノーだ。蛇と言えば爬虫類で変温動物、冷凍コンテナみたいな所にでも逃げ込めば動けなくなるだろうが、生憎Ⅰ公立高校にそんな施設がある筈ない。
 一人じゃ考えられない、そう判断した楓は隣を見た。頼っても良いよなと、心の中でまず自分自身に問う。そして胸の中で結論を下す、大丈夫だと。一人じゃない、隣を見れば良い。氷室は楓が死んで良い訳無いと断言した。つまりは仲間だと認められているのだろう。
 困ったら頼るのが仲間だろう? どこかのクソ野郎の声が楓の海馬の中を巡る。

「なあ氷室、学校の中で蛇が来れなさそうな所……あるか?」
「蛇が来れなさそうな所ねえ……寒い所?」
「それは考えたけど学校には無い。くっそ、開始まで残り二分かよ……」

 いつの間にやらDeathの設置したディスプレイ付きの砂時計が開始まで二分だと告げている。正確には一分五十八秒だがそんな事どうでも良い。サラサラと、真っ白な砂が下へと落ちている。
 爬虫類の特徴を考える。鱗がある、卵で子孫を残す。陸生であり肺呼吸、変温動物である、脊椎動物の一種。数え上げればまだまだキリは無い。だがその特徴のうちの一つが嫌に頭に引っかかった。

「待って……そうだ! そうすれば良いんだ」

 氷室が、楓の口から洩れた特徴を一つ一つ吟味して、その中から最も使えそうなものを選ぶ。その顔は自信に満ちている。

「説明は後にするから、とりあえず体育館の方に行くわよ」
「体育館って……倉庫にでも隠れるつもりか?」
「そんな訳無いでしょ? あの倉庫、窓から入り込めるから密室じゃないわよ」

 そう言われた楓は思い返した。体育の時に何度かその目に収めたことはあるのですぐに分かる。確かにあそこには壊れた窓がいくつかあり、そこから入られたら大変だ。

「さっき楓は、肺呼吸だって言ったわよね? それなら水中では息ができないって事よね?」
「ああ、そうだけど……ああ、なるほど」
「そう、水の中に逃げ込めばいい。万が一あいつらが泳げたとしても、ビート板でも使って上から叩いて沈めればいいしね」
「だからプールに向かってるって訳か」
「そう、体育館のすぐ隣のね」

 目的地がはっきりとした楓は速度を上げた。氷室に付いていくのではなく、自分から道案内をする。多少氷室のスピードの無さが否めないので腕を掴み、走りだす。

「言ってる間に始まるからな、嫌でも仕方ねえだろ……」
「まだ嫌って言ってないんだけど?」

 今までの経験上、最悪びしょ濡れになっても元の世界に戻る段階で乾かしてくれるだろうと、二人ともジャージのまま水中に飛び込む。しかしいざ水面に足を付けるその寸前の瞬間に、何やら水の表面に波紋が広がる。波紋は落とし穴のようになって、距離感のつかめない異空間に二人は落とされた。
 いきなりの浮遊感かと思えば、その直後に地に足を付けている感覚が足に来た。衝撃は全くなく、すぐにここが人智を越えている妙な所だと分かる。アダムなどと関わっているとそれが常識になってきていて、それがどことなく楓は恐ろしく感じた。こんな事に慣れっこになってしまうと本当に大きな運命に流されてしまいそうで。

「いきなり何だ? まだげえむは終わるどころか始まってすら……」
「開催する必要はないと儂が判断した。合格じゃ」

 突然、外に繋がる丸い穴が空間に開くと同時にDeathが出現する。先ほどは無意味だった大きな鎌をその手に持っている。

「合格って、どういう……」
「そのまんまじゃ。儂の想定通りの答えを出した。だからこれ以上テストする必要はないな」

 随分勝手な判断だと不平を漏らし楓は舌打ちする。そんな事は意にも介さないようにその大きな鎌をDeathは振り下ろした。異空間中に大きな裂け目が現れ、現実世界が見えた。
 本当にテストは終了のようで、これは帰してくれるという事だろう。

「早う帰れ。ヴァルハラの使者に捕捉されたら儂が面倒なんでな」

 催促されずとも、氷室から先にその切れ間へと向かう。まるで普通に、ドアを抜けるようにして元の地面に降り立つ。それを見た楓もすぐに元の世界に戻る。
 振り返った時にはもう、出入り口は閉ざされていた。

「全く、結局あいつ何だったのよ」

 さっきの老人に対して明らかな怒りを向ける。その姿は最初のげえむで初対面した時のように憎々しげな怒りだった。
 そんな事よりもと、思い出したように氷室は楓の方を睨むようにして見つめる。特に起こられるような事をした覚えはないはずなのだが楓は回想する。だが、楓が悪いというような内容ではなかった。

「ヴァルハラの使者って結局誰なのよ?」
「ああ、それか……ヴァルハラの使者っていうのは、聖域“ヴァルハラ”に住んでる神様だよ」
「知らないわよ。誰? 言いなさい」
「そんなキレんなって……」

 そこで楓は一拍置いた。もしも彼の推測が正しかった場合、ヴァルハラの使者が敵か味方かによって心強さや恐ろしさが変わるのだから。

「北欧神話の最高神……戦と全知全能の剛神……オーディンだ」



                                             続きます


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最近文章力が落ちてる気がする……
これはちょっと改善して行かないと……
ヴァルハラの使者の謎が今、ほんの少しだけ明らかに!
神話好きな方は元から知ってたかも。
では次回に続きます。