複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第四章開始 ( No.117 )
- 日時: 2012/08/02 21:10
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rLsFNazb)
四章五話
「イグザム。文が届いたぞ」
「手紙? 誰からさ?」
真っ暗な空間で、きっちりとげえむ用のステージ作りは順調に、順調に進んでいた。
当初、二、三週間はかかるのではないかと踏んでいた神力を使った建設工事も、後一週間程度で完成、という進行具合だった。
双六らしく、地面にはレースのコースを思わせるようなラインが、所々曲がったりしながらだが、緻密に描かれている。
一つ一つのマスがそれぞれ、黄色や赤、青色なんかで塗りつくされている。
後は、双六に関するルールや、ちょいちょい実施するであろうみにげえむの会場作りにいそしめば良い。
「想像者にして創造神、あのお方からじゃ」
「ああ、ブラフマーね」
会話を繰り広げているのは、美しい金の髪、緑の瞳を持った少年の姿を象った髪、イグザムと、大きな鎌をもたげる長い髭を蓄えた老翁、Deathだ。
片方、イグザムの方は完成を待ち焦がれて爛々と目を輝かせているのだが、一方Deathはというと、神妙な顔つきをしている。
その声を聞いたイグザムは瞬間、笑顔を崩して見つめ返してみた。
Deathは歳を取っているだけあって、そうそう人をからかったりはしない。
E以上、つまりは幹部である五人組の中では最もイグザムが信頼を寄せているのがこの老翁姿の神だった。
少なくとも、何を考えているのか分からない、ちゃらんぽらんなアダムやボスよりかははるかに信頼できた。
「……どういう通達?」
「我慢は限界だ。私の力はもう溜まっている。今こそ破壊の時。破滅の時だ。後三日、それが終末の採択試練の火蓋の落とされる日。永き人の世と短き貴様らの世、消え失せるのはどちらだろうな」
「なんともおっそろしい予言だね、まあ……」
人間側の代表者は、試練が始まる前にぶっ殺しちゃうんだけどさ、とイグザムは呟いた。
その時の顔は、もはやその背格好では全く想像のできない、冷酷で悪逆非道な者の表情だった。
終末の採択試練、それは太古より続く神々と人間との間の戦争のことだ。
初代の神様であるインド神話の面々は、ただただ世界を造り、壊し、世界を回すことに飽いていた。
そこで始めたのが、自分たちが作った命と戦争でもするか、ということなのだった。
ルールややり方は簡単、まず、神が全員、自分自身の力をほとんど余らせることなく装置に注ぎ込む。
そして、全員分の力を持った巨大な光の玉を作り上げる、これを受けると作られた生物も、それを生成した神ですらも消滅する。
その光の玉を、神界と地球のどちらに落とすのか、それがやり方である。
ルールとしては、採択の玉座と呼ばれる台座に対して、先に神具を入れた者が勝ち、となる。
最初、それを行った時に恐竜は滅んだ。ルールを解する、知能が無かった。
次に、猿人が消えて、原人が滅び、旧人が、姿を消えて行った。
そんな時にようやく現れたのだ、驚異の存在、ホモ・サピエンスが。
ホモ・サピエンスは過去に七回、終末の採択試練を生き残っている。
アレクサンドロス大王に神武天皇、聖徳太子や織田信長なんかがその功績を上げていた。
過去に消え失せた神様は、最初のインド神話、オーディン率いる北欧神話、ギリシャ神話、天照率いる日本神話、その他アフリカや南米の者たちだ。
初代の神様は、自分たちを倒すためにと自分たちで兵器をこしらえたのだが、第二期の、つまりは北欧神話の連中は違っていた。
唯一生き残ったインド神話の創造神、ブラフマーが妖邪として化けて、その度に敗者を滅ぼしていた。
最初に出てきた時は、恐竜の姿をまねていた。
二回目に出てきた時には、後々日本で猫又と呼ばれるような姿で現れた。
三回目、そして六回目は阿修羅像のような姿だった、顔が三つ、腕が六本だから使いまわしたのだろう。
四回目はヒトの姿をしていた、手足合わせて四本だからであろう。
五回目は、尻尾をカウントして、ということで炎を吐く亀の姿だった。
七回目……前回は鵺というキマイラ的な存在でブラフマーはやってきた、との話である。
色々と動物のパーツを繋ぎ合わせて、七本をこしらえたらしい。
八回目、つまりは今回の姿を予測するのは容易いことだった。
日本の伝承をなぜか気に入っているようで、日本色の強い過去の統計から見ても間違い無い。
今回はきっと、八岐大蛇の姿で現れるのだろうと、聖騎士団、そしてヴァルハラの使者は考えている。
「現在地上で最も危険因子なのは楓なんでしょ? だったら明後日、出来はいまいちになるけど双六実行するよ。何、ほとんど完成してるから大丈夫、明後日はアダムの使者全員出動だからね」
それだけ言い残すと、イグザムは建設の方に戻って行った。
部下にだけ任せて、神力のありあまる自分がサボっていては示しがつかないと思ったのだろうか、きびきびとしている。
だが、イグザムの中にある最も強い感情は楓秀也との再戦だった。
「どっちが死んでも恨みっこなしだからね、楓……」
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「ありがとうよ、楓、家庭科の授業潰してくれて」
「露骨に言わないでくれ、凹んでくるから」
休憩時間に入ると、急にクラスメイトが寄ってたかってきてそろそろ楓はうんざりしていた。
朝は物おじしているように、近づきがたかった奴らが家庭科で一通りネタにされたせいであっさりと話題にしてくる。
そしてそもそも、自分が潰した家庭科の授業を楓は嫌がっているのに掘り返してくるのだ。
「そういや氷室さんと昔っからの知り合いなんだってな。仲良かったのか、オイ」
冷やかす口調で問いかけるその友人の顔を楓は白い目で睨みつけた。
事情を知らないのだから仕方が無いのだろう、そんな訳あるかと怒鳴りつけてやりたい。
だが、強すぎる否定は逆に冷やかしを煽ってしまうと分かっているので、落ちついた口調を手に入れるために一拍を置く。
そして、いざ口を開こうとしたその瞬間、その努力は容易く打ち砕かれた。
「私とこいつが? ある訳ないでしょ。そんな事は絶対にない」
「面倒くさいから入ってくんなこっちに!」
自分の席から氷室までは、乙海一人分しか隔てていないのだから、こちらの会話は筒抜けだったのだろう。
だが、それにしてもここで入ってくるとは思っていなかった楓は表情を強張らせた。
何のために強い語調にならないように配慮していたと言うのだろうか。
少しは言葉だけでなく語気に関しても意識を配って喋れと叫びたいが、今は無理。
とりあえず彼は、うらめしそうな表情で、険悪な雰囲気の氷室を睨むことしかできない。
とは思ったのだが一応はあっちの意見に乗っかるために仲の悪いところでも見せてやろうかと思い、それに同調したのだが……それが一番の失敗だったとコンマ一秒後に気付くこととなる。
「面倒くさいとは何様よ! こっちのセリフよ、最低人間!」
「まだ引きずるか! 許すとかぬかしてまだ引きずるのか! 結局かお前はっ!」
「そうじゃないわよ、折角否定の語句を代弁してやろうと思ったのに……」
「それが余計なお世話だって言ったんだよ! 察せバカ! もうちょい丁寧に否定しろ! 単細胞かてめ……」
「丁寧に否定って何よ! 何を意図してよ! ってか誰が単細胞なのよ、だれ……」
「知りたいのなら人の言葉を最後まで聞けばいいはなし……」
「あんたも人のセリフ遮ってるじゃない!」
口喧嘩の小競り合いの応酬……にしてはいささか過激すぎる討論に、周囲の者はただただ唖然としていた。
最近引っ越してきたばかり、まだよそよそしい雰囲気を持っていた氷室が、楓の前で大爆発しているのだ。
それに対して、普段はここまで舌戦を繰り広げない楓も普段とは比べ物にならないテンションで応戦している。
その様子もひどく新鮮で周りにいる皆の笑いを誘った。
「なんだ、仲良いじゃん」
「これの一体どこが!」
両脇からふてくされた表情で乙海と赤弥がツッコミを入れてきた。
それに対して、楓はいち早く反応して、それを拒絶すべく反射的に叫んだのだが、逆効果だった。
なぜなら、同タイミングに氷室も吠えていたのだから。
しかも皮肉なことに一字一句違わない文を、完璧に計り合わせたかのようなピンポイントな感覚で。
「あんたねぇ……」
「お前なぁ……」
「タイミングが悪い!」
さらに逆効果、そこまでかぶせなくても良いではないかと言いたくなるほどに阿吽の呼吸である。
男子一同、女子一同、引きつった笑みながらも爆笑していた。
顔が引きつっているのは思春期特有のものだろう。
二人とも、同学年の異性からの評判は一応、クラス、もしかすると学年で一番高いのだから。
続きます。
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神様サイドと人間サイド。
とりあえずは片方は平和ですね。
では、次回に続きます。