複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 六話後半up ( No.119 )
- 日時: 2012/07/29 14:36
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 0Sb7QHNJ)
四章七話
鮮やかなオレンジ色が、西の空に映える夕暮れ時、氷室に言われた通りに竹永を呼んだ楓は、校門の前に立っていた。
呼び出した当の本人はというと、サッカー部のマネージャーなのでボールや用具の片づけを手伝っている。
まあ、それは仕方が無いのだが、夏真っ盛りの七月に、日陰に入らずに待つのも多少の苦行である。
ここに来た時には文句の一つも言ってやろうと楓が考えていると、隣の竹永が口を開いた。
「それにしても、いきなり集合って何で?」
「それは俺の方があいつに聞きたいですよ。多分、メンバー的にあの話でしょうけど」
三人の共通点、それはもちろんアダム関係の話だ。
以前に第二のげえむが行われたのは竹永もすでに知っているが、つい先日の、幹部の一人のDeathの来訪はまだ伝えていなかった。
さらに、楓としても報告しておきたいことが一つあったので、この集会は彼にとって、それなりに良いタイミングでもあった。
実際は試合の直後に竹永だけにでも報告しておこうと思ってはいたのだが、叱られた後に自分が泣きだしてしまったので、切りだすタイミングを完全に失ってしまっていたのだ。
それにしても、と楓は考える。
今のところ、父親、楓 俊介の発言から予測できることをいくつか話すつもりでいるが、一つだけ分からないことがあった。
俊介は息子である秀也に、「巫女に会ったか?」と尋ねてきた。
そんなもの神社にでも行かないといないだろうと、即刻否定しようとした理由は、身近に心当たりのある人間がいないからだ。
竹永は巫女というものとは、タイプが少しずれているようにも感じられ、氷室に至ってはあの性格の悪さで巫女は、巫女に対する冒涜ではないかと思っているからだ。
だが、そんなことを本人に言える由もないので、黙っておくと言う訳だ。
完全下校時刻までの猶予が残り五分だと知らせる鐘が鳴り響く。
この辺りから、もたもたと準備していた生徒が慌てて帰る準備を始めるのだ。
特に体育館を使っていた部活はたいがい帰る準備を始めるのが遅くなる。
その点、サッカー部や陸上部は、部室がグラウンドのすぐ傍なので片付けは割と早く終わらせることができる。
そうこうと、考えが脇道に入ったその時、ようやくと言っては何だが氷室が現れる。
後ろには大勢のサッカー部が群がっており、内心面倒に思ってるだろうなと、楓が察すると、隣の竹永が氷室に手を振った。
それを見た後ろの連中は、すでに帰る際の仲間がいることを残念に思いながらも散らばる。
変な恨みや余計な噂を恐れた楓は、ばれにくそうな物陰にもたれかかる。
氷室を追い抜いた男子がぞろぞろと出て行った直後に楓は元の立ち位置に戻る。
すると、心底疲れ切った表情の氷室が現れた。
「大人気ね、あんたは」
「竹永さんぐらいに気が強かったら良いんですけどね……」
姉御肌の竹永が可愛い後輩をいたわるように声をかける。
すると氷室は珍しいことに心を開き、とうとうと弱さをさらけだした。
楓の知らないところで二人には交流があるようで、氷室が無防備に心を開くその姿に楓は驚いた。
それを怪訝そうにしていただけだが、氷室はそれを別のものとして解釈したようだ。
「誰の気が弱いんだって言いたそうな顔してるわね」
「えっ、いや、ちがっ……」
「分かってんのよ、言おうとしてることは。大体何が悪逆非道な暴君よ。変な情報流さないでくれる?」
「地獄耳め……」
どうやら、教室で楓が氷室のことを悪逆非道と罵ったのがばれていたようで、楓は気まずそうな顔をした。
しかし、それを取り繕うために、自分が苛立つように見せかけるために地獄耳と言ったのが悪かった。
「へぇー。そっか、私は地獄耳か。じゃあとりあえず、色んなところから楓くんのある事無い事聞きだして言いふらしてみようか」
「……てめぇ…………」
顔を引きつらせながら楓は抵抗しようとするも、竹永が割り込む。
ただでさえ疲れているのだからこれ以上闘うな、と。
「絶対に悪い男に掴まらないでよ、冷河」
「はい。まあ、男子の告白なんて信用できないって知ってますしー」
竹永の抑制も虚しく、氷室の刃はいまだに楓に向かってロックオンされている。
まだそれを、自分を突きさす種として利用するのかと、楓は目を伏せる。
罪悪感にかられるのを、真正面から見られるのは中々に厳しい。
しつこい、だなんて言った日には殴られても仕方がなさそうなので、反省した素振りで黙り込んだ。
まあ、昔のことを持ち出されたら反省するしかないのだが。
「何よ、そこまで落ち込むことでもないじゃない」
悪いと思っているのかいないのか、氷室は楓に呼び掛けてみる。
それも黙殺しようかという考えがよぎったが、さすがにそれは挑発になると思い、何か言葉を返そうとする。
しかし、いざ顔を上げてみるとなんと返せば良いか分からない。
苦し紛れに飛び出したのは、突拍子もなくはないのだが、あまり相応しくは無い言葉だった。
「そんなにお前、俺のことが嫌いか?」
言ってしまってから、楓はやってっしまったと感じた。
これでは自分が気があるみたいな質問ではないかと思い、硬直する。
訊かれた方の氷室も、目を点にして固まっている。
それに対して、竹永はというと、一人だけ笑いを必死でこらえていた。
どこをどうしたらそうなるのだと突っ込みたいのか、フリーズした氷室を笑っているのかは分からない。
しばらくして、氷室が変に動揺した口調で口を開いた。
「いや、嫌いじゃないけど何か……虐めたくなるんだよね」
「それって、もはやガキ大将の理屈だよ、冷河」
ついにこらえきれなくなった竹永は、笑いを漏らしながら氷室に向かって言う。
笑っているせいでところどころ上手く発音出来ていないのだが、言いたいことはしっかりと伝わった。
「……違いますよ! そうじゃなくて……」
「良いから良いから。さっさと行きましょって」
揃ったのだから、いつまでも話していないで歩こうと竹永は促す。
気まずいことこの上ない氷室が顔を真っ赤にして歩き出し、ついていくように楓が歩を進める。
最後に続いた竹永は、誰に聞こえるともなくぼそっと言葉を漏らした。
「好きな子ほど虐めたくなるとか、やっぱり気の強い男の子みたいだよ」
西に傾く明るい太陽だけが、それを聞いているようだった。
続きます。