複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 鬼ごっこ編第十五話更新 ( No.19 )
- 日時: 2011/09/13 19:54
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: lm8tIa56)
挫折含めて何度目かの作品なんだけど
一番この作品が参照多いということに気付いた。
参照200、自分の中での最短記録・・・
第十六話 激動
「何・・・だと・・・?」
先ほど言われた言葉がすぐには飲み込めなかった。だが、言っているその言葉をまだ理解していないタイミングで、何か胸の奥でザワザワと感情が滾ってくる。黒く淀んだような気持ちが、スローペースでゆっくりと浸食してくるように、じわじわと溢れ出てくる。そのことから今感じているこの感覚は嫌なものなのだと分かり、それによってようやくさっき天の声が言ったことの重大性が呑み込めてきた。
「残っているのは・・・五人」
今この場にいるのは、楓秀也、斎藤さん、竹永叶、楠城怜司、氷室冷河の五人。つまり、自分たち以外の人間は全てしん・・
「おかしいじゃない!私達は十二時を過ぎてから一度たりとも鬼の姿を見ていないのよ!なのに、なのに他の人だけが狙われるなんて虫が良いことが・・・ある訳が無い!」
動揺を隠すことなく、隠すことができずに竹永は空に向かって叫んだ。確かにそうだ、ここに来るまでも一度たりとも鬼の姿は見なかった。自分たちだけが襲われないなどという、都合のよい偶然が起きる訳が無い。それこそ本当に、自分たちの処理を後回しにするために鬼が意図的に追わなかったとしか・・・
「何言ってんの?原因を伴わない結果は起きない。偶然という言葉は、原因があまりにも都合が良すぎて起こりえないことが起こる条件が、確率低いそれが揃ったときに生まれた妄言のようなものだよ。まず、楓秀也に竹永叶、この二人はみんなが見知らぬ土地で理性を失う中、地元民というアドバンテージのおかげで空港にたどり着けた。次に楠城怜司、君はその二人に着いていったのだから助かった。そして氷室冷河、君は因縁のある楓秀也を見つけて追ってきただけに過ぎない。この四人は最初から慌てふためく他の人達と別々の方向に逃げた。大多数の鬼が大多数の、空港と反対方向に逃げた人達を追いかけた。君たちを追った鬼は全体のごく一部だった。しかもその鬼をほとんど全て、空港で消してしまった。しかも楓君のいないタイミングで、鬼に囲われた時に警察署に逃げ込んでやはり鬼を消してしまった。その段階でもう君たちの方面にいる鬼はいなくなった。だから君たちは簡単に今生き残っている。そして、反対側の狩りが勢いを増したのは午前二時ごろ。もうすでに斎藤さんもこっちに来ていた。ほら、君たち五人だけが生きているのは偶然じゃない。全て、原因をきっちりと伴っている結果であり、必然なんだ」
天の声が珍しく、こっちに息つく暇も与えぬほどのペースで、まくしたてるように話し続ける。おそらく、今までで彼が話した中で最も長い会話だろう。でもこの話は非常に合点がいった。全てが理にかなっている。
「殺られた人達は今、そっちに向かっているよ。君たちしかいないんだからね。そして、後もう少しで鬼の中のトップが現れる。窮地に陥るのも時間の問題だよ」
被害者のみんなに追悼するように、ただ斎藤は声にならない嗚咽を漏らして、ただ俯いて涙を流していた。どうしてこんなに彼女は見ず知らずの人に優しく、慈悲深く、その人の哀しみに共感することができるのだろうか。こんな人が、小学校にいたら良かったのに。楓は、心の底からそう思った。けれどもう少し考え直す。もしかして、そういう人がいなかったから今このタイミングで氷室が生きているのかもしれない。ふと、楓はそう考えを正した。あんなことがあったせいで、彼女は自分に憎悪を燃やした。だからふと見つけた自分に対し、追うように着いて来たから今まだ生きているのではないか、と。これもまた、彼の言うとおり、都合のよい原因を伴う一つの結果なのであろうか、とも。
「・・・待てよ」
ここでようやく、被害者のためにも絶対に逃げ切って見せるとスイッチを切り替え得ようとしたのだが、そうすると現実的な問題が一つ浮き彫りになって戻ってくる。あまりにも楓への対応が酷過ぎる点だ。
「何で俺だけ手品なんだよ」
他の人は銃を使えたり、気配を消して逃げたりとそれなりに戦えそうな才能が与えられている。しかしだ、手品って何なんだよということになる。なんで一番活躍している方が待遇が悪いのかは、大体の察しがつく。そんな物無くとも逃げられるからだ。
「君に手品は合っていると思うよ。ついでに言うと、それは手品を実行する才能だからね」
そう言って、天の声は楓達との会話を止めた。
誰かが、真っ暗な空間にいた。真っ暗な空間にたった一人だけの何かが、画面の中の楓を眺めていた。
「君の知力と手品、つまりは人の意識の裏をかく才能が合わせることに気づいたら、君は一気に化けることになる」
そうして、モニターの横に置いてあるグラスを取った。中に入っているのはコーラのようで、茶色い液体の中を無数の泡が立ち上っている。スライスされたレモンも浮かんでいる。それを一息に一気に飲み込んだ。
「もう、時間が無い。後もう一年も無いんだ。こんな強行的なやり方を許してくれるだろうか?」
そう、時間が無い。もうすぐそこまで迫って来ている、選択の時が。人類全体の行き先をも左右する大きな試練が・・・
「ジ・アダプション・トライアル・オブ・アン・エンド、か」
直訳すると終末の採択試練。それを採択させないためには今いる人類を強くさせないといけない。
「もう一度、ヤマトタケルノミコトのような者を育てないと・・・もう一度、あの剣で奴の復活を止めるしかない」
古くは、自分が倒した超獣から生まれた存在なのだが、あまりにもその力が強大になりすぎて、対処法はすでに復活させないことのみになってしまっている。
「八本の首と八本の尾から転生したあいつを・・・」
しかしあいつら、もうすでに楓たちを殺して、全ての可能性の芽を摘もうとしている。少しずつ自分も助け舟を出しているが、時間の問題だ。
「こっち側の奴らも、ついに俺一人か」
深く重く、彼はため息を吐いた。聖騎士団に、自分たちだけで勝てるか、その確率は無いに等しかった。
続きます
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何か色々新しい単語が出ました。