複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第十九話更新 使者登場 ( No.26 )
- 日時: 2011/09/22 20:13
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 6QQsLeeZ)
第二十話 対面
もう夜道に静寂は戻っている。鬼たちはとうの昔に先輩たちの方を追って行ってしまったようだ。
こちらにはもういないことにホッと胸を下ろすと同時に、向こうの三人のことが気がかりになってきた。頭脳たるリーダー格がいないとはいえ、さっきいた鬼は全てあちら側に行ってしまったのだから。どうなうことか・・・
ハッと我に戻り、急いでそのネガティブな予想を打ち消すように首を振る。さっき納得したばかりじゃないか、あの三人ならきっと大丈夫だと。それなりに役立つ才能を渡されている上にそれなりに頭脳も働くはずだ。
簡単に殺られてしまうことなんて絶対にありえない。
自分に暗示をかけるようにその言葉を頭の中で何度も何度も反芻する。そうしてようやく、落ち付きと強い意志が戻ってきた。
助け出したいのなら、無事を確認したいのならまず自分が逃げ切らないといけないのだ。強い眼差しで天を睨んだ。姿も見せずに楽しんでいる彼に対しての敵対心を込めて。
そこで何やら氷室が楓に話しかけた。何か無線のノイズのような音が聞こえてくる、と。
「ノイズ・・・一体誰が?」
その呼びかけに対して驚いたような表情で訊き返してみる。しかし少し考えれば分かることだった。
一般の鬼には喋ることができない。意志云々の問題ではなく声を出すために必要な声帯という物が欠如しているからだ。ただし、この考えは後に間違いだと分かるのだが。かといって竹永達がそのような機械を持っているとは思えない。自分たち以外に話す相手がいないからだ。
だとすると、唯一残っている候補はさっきから未だ出会っていないリーダー格だということになる。天の声が、リーダー格の命令を聞いて忠実に動くと言うプログラムを入れたと説明していたので奴らは話せるだろうと見当を付ける。
「で、そのノイズはどこから聞こえてきているんだ?」
その辺りの事情を一人頭の中で考査した上で納得した楓は氷室にさらに訊いてみた。
すると、案外すぐ傍だということに気が付いた。
氷室が人差し指を伸ばしてある一点を指差した。そこに、普通の鬼とは何かが違っているような骸骨が立っていた。
「近いなぁ・・・」
舌打ちするか溜息を吐くか迷っていると、それはできなくなった。それをするよりも前にその一風変わった骸骨は話し始めた。
さっき声帯が無いから喋れないと思ったばかりなんだけど、と楓は抗議したくなった。それほどまでに彼・・・と呼べるか怪しい存在は流暢に言葉を発した。
「お前が楓秀也だな?でもってそこの奴が氷室冷河だなぁ!?オイ!」
流暢な上にやたらと大きな声で捲くし立てるようにそう言い放った。というよりこいつ騒ぎたがりなんじゃないだろうかと可哀そうに見えてくる。
しかも、こっちの名前勝手に知ってるし・・・。どうせなら自分の紹介もしてほしいと思う。特に名前。
「ちょっと、人をおまけみたいに言わないでくれる?」
自分が楓の付属品のようにあしらわれたことに付いて怒りを露わにする氷室。殺気にも似た苛立ちを相手に飛ばしている。それを軽くあしらうかのようにへいへいと軽い口調で返した後に、自分の名前を告げた。
「俺の名前はジール。Zの称号を持つ聖騎士団であり、アダムの使者だ!」
聖騎士団?アダムの使者?聞き覚えの無い言葉が二つ飛び交う。それは置いておいて、なんともぴったりな名前だろうかと思う。特に面白いことではないのだが、楓は少し笑みを漏らしてしまった。
それに気付いたのかそのことについて彼は訊いてきた。表情が一切変化しないので最高のポーカーフェイスだなあと感じる。こんなにも暑苦しいのに。
「何が可笑しいって言うんだよ?」
「いや、名前と性格がぴったりで、さ」
それについて怪訝そうな顔つきになる。それを知りたいかはしらないが、一応伝えておいてやることにした。思いの外、氷室と声が重なったが。
「英単語『zeal』。それの持つ意味は熱意、熱情、熱血、熱中、という意味。一個何か言う度にやかましく発言するのもそれのせいかな、ってね」
多少皮肉は交えたがそこまで悪くない意味なので好意的な反応を示した。しめた、そう判断した氷室はついさっき道端で拾った銃を取り出した。もう消えてしまった、初めからいた鬼の所有物か何かだろう。
パンという乾いた音がそこいらに鳴り響く。鼻の奥にスッと雷管を撃った後のような焦げくさい硝煙の臭いが漂ってくる。
それは、ジールのいる地点から大いに反れていく。誤発かと思い、油断したのが彼の間違いだった。氷室が最初から狙っていたのは水道管だった。
撃ち抜かれた水道管から水が飛び散り、乱反射する膜が構成される。それは調度自分たちとジールの間で展開され、お互いの視界を塞いだ。
味方を呼ばれたら圧倒的に不利、それは言うまでも無く分かっている。だからこそさっきから逃げ出すためのチャンスをうかがっていた。本人を撃っても良かったのだが元から死人のなれの果ての骸骨なので死という概念が存在するか怪しかったのでそうした。
それにどうせなら、奴らのルールで倒してやるというのも一つの礼儀ではないか。
「じゃあな、ジール!今度は仲間連れて追ってきな!」
そう言って、言い残して高校生の二人は逃げ出した。彼を倒すための策を考えだすために。
易々と取り逃がしてしまった、そこに取りのこされたジールは悔しそうにして、一応水の膜を押しのけて彼らの行く末を確認しようとしたが、一歩遅かった——。
「楓達、大丈夫かしらね?」
一通り走ってさっき走ってきた鬼を全て捲いた彼女ら年長組三人は三人で彼ら二人の心配をしていた。
それを上から見ている影があった。彼の名はイクス、Xの称号を持つ者でありジール同様にアダムの使者である。
「こっちには、ヴァルハラの使者のお気に入りはいないのか・・・」
ハァ・・・と短く彼は残念そうに溜息を吐いた。できるだけ強い奴と対峙して見たかったのだが、そう彼は残念そうにしている。
「まあ、こっちはこっちで楽しそうだからまあいいか」
不吉な風が吹いてきたような気がした。
続きます
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アダムとヴァルハラの違い?
その内出てくると思います。