複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十一話更新 ( No.29 )
- 日時: 2011/10/01 21:45
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 9nW7JjDH)
第二十二話 対戦開始
「お前何考えてんの?馬鹿なの?勇気あるの?」
あまりにもずさんな氷室の行動におもいっきり楓は顔をしかめている。決して怒ってはいないのだがかなり呆れたような顔つきになっている。
それに対して氷室はかなりあっけらかんとしていた。楓の批難など気にも留めないかのようにあらゆる方向を見渡してジールが出てこないか待っている。事の重大性が分かっていないであろうから楓が文句を言いつけた。
「今のがジール以外に聞こえてたらどうするんだ、二対一じゃあ分が悪いん・・」
「二対・・・一!?まるで私が戦力外みたいじゃないのよ」
その通りだよ、という言葉が喉から出かかったがそれを抑制する。仲間割れをしても何も始まらない。実際、こんな強硬策を相談も無しにリスクも考慮せずに叫ぶのは確実にミスだ。
戦闘要員は拳銃をたった一丁持っている氷室一人に比べて、敵は何百もの銃と何百もの兵士、おまけに本場の軍隊のような指揮もおりるだろう。きっと二対一どころの騒ぎでは無いのだ。
数百対二、というのが一番正しい形容であろうと薄々感づいていた。例え追ってくるのが統率者がジールただ一人だとしても百は必ず引きつれてくるだろう。
「ごめん、言い間違えだと思ってくれ。でもはっきり言ってもっと人数面では格差があるということは、頭にしまって・・」
楓の説教を右耳から聞き流しながら、左耳でとある微かな音を聞きとった。ガシャガシャと、空気の擦れるような不快音。間違いなくこれは鬼が来ている証拠。かなりの大群が押し寄せてきていることから、おそらく統率者が一人はいるはずだ。
聞きとったこととそこから察せられる旨を楓に伝える。
それを聞いた楓は小さく、疲労感たっぷりに溜息を吐いて目的地にすぐに向かえるように身構えた。用意するべきものはちゃんと用意した。とはいってもたった一つだけだが・・・
両手に持つ二本の一升瓶を見つめながら楓は疲れ切った表情を浮かべていた。さっきから何度も腕が痛いと言うのを堪えている。
一本持っているぐらいなら良いのだが、氷室は一本たりとも持っていない。偉そうな口をきくならもう少し貢献して欲しいと切実に願う。
まあ、ジールに勝つための最後の一手は氷室がいないとできないのだが。
「どのみち一番近いのはジールでしょ?他のに聞こえてたら来る前にジール片したらいいのよ」
そう簡単に行くと思いこまない方が良いんだって・・・と呆れたようにこぼしたくもなったが、氷室と口喧嘩したら圧勝か惜敗の二択なので止めておくことにした。
まあ、言っていることも一理あるのだが。一番近くにいるのはジール、それは間違い無い。他の奴が来て困るなら、来る前に片付けたらいいということだ。
多少の理屈はともかくとしてまた氷室に話しかけようとした時に、氷室の方から話しかけてきた。
「今鬼が来てるって言ったわよね?早く走る用意してくれる?」
その言葉で、すぐに氷室が言ったことを忘れてしまった自分に気づく。挑発に乗り、すでに迫って来ているのが一つあったのだった。
どのような相手であろうとも、すぐに対応、引きつけられるように体半身だけを曲がり角から出して、奥の方の様子を覗っていた。
角を曲がって現れたのは、やはりジールだった。きょろきょろとあたりを見回すような仕草をした後に、すぐに楓達の姿を捕捉した。おびき寄せるようにして隠れている二人を見ても、ジールは不審に思わずに、追うように部下である他の鬼に命令した。
「やっぱり、あいつ頭回らないんじゃないか?」
楓が敵であるジールを心配するようなセリフを漏らした。それを聞きつけた氷室の顔つきはほんの少し変わった。敵である者に情けをかけるなど、どういうつもりなのだ、と。
嫉妬か?と訊かれたらそうだと答えてしまうかもしれないが、やはりそのような感情は氷室に本来欠如しているものだった。
ただの甘さであろう、そう吐き捨てればすぐに片付くことなのだが、そうではないと自分自身が否定していた。楓は、ちゃんと相手を倒すことに躊躇をするつもりもなく、覚悟も出来ている。甘さでは無い、でも優しさとも違う。生まれ持って出現している慈悲の心。天女や女神、神や御仏のような感情。
「私は・・・一体どっちなんだ?」
誰にも聞こえないように、自分自身に訊いてみるように小さく言葉を発した。自分は、自分は楓よりも優れていると誇示するために一緒に行動しているはずだった。
それなのに、それなのに見つかるのは自分に無くて、楓が持っている物。それを打ち消そうと考えれば考えるほど、その敗北の面は徐々に浮き彫りになっていく。
あれほど憎んでいたはずなのに、いつの間にか——。
「何を考えているんだろうな、私は」
今さらそんなことを言ったところで鼻で笑われて終わりだろう、弱々しく首を振って悲しげに溜息を吐いた。
実際竹永も見抜いていたのか、鋭い目つきで睨むようにしていたことを思い出す。
でも、竹永がきつく見つめた本当の理由は、難癖付けて本心を言おうとしないことだったことは、氷室はまだ知らない。
そうこう考えている間に、決戦の場に到着した。まあまあ立派な建物で、下には何台も大きな、特別な車が止まっている。
「さあ、ジールを迎え撃とうか」
続きます