複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十二話更新 ( No.30 )
- 日時: 2011/10/04 20:52
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 9nW7JjDH)
第二十三話 決戦
「あいつらここに逃げ込んだのか」
とある建物のすぐ下に、骸骨の兵隊が訪れていた。その先頭に立っているのが頭の部分が他の骸骨と相違している一体の首領格だった。鹿のような草食動物の頭蓋骨に肉食獣の牙を付け足したようなものだ。彼の名前はジール、アダムの使者の一人。目を付けた楓と氷室の二人を追ったらこんなところにたどり着いたのだ。
眼前にそびえ立っているのは、消防署という建物だった。それなりに立派な建築物で、下には何台か消防車と救急車が止まっている。さっきまで追っていた二人の影が角を曲がると共に消え失せた。入れるような建物はここぐらいだ。だとするとここにいる以外に選択肢は無い。
次の瞬間、彼は思考を張り巡らせる。この建物のルールの予測だ。銃を持ち入ってはいけないようなものであれば、ただちにアウトだ。しかしここは警察署では無く消防署、端的に述べると拳銃など一切関係があるまい。消防隊員の仕事にそもそも銃が絡まないのだ、そんなルールが出てくることは無いだろうと即断した彼はその建築物の中に足を踏み入れた。
思った通り、銃を持っているジールであったが、一切の変化は無かった。その様子を見てほくそ笑むような雰囲気を発した彼は部下たちに入ってくるように促した。指示を見た普通の骸骨の一団も後を追うように中に入る。
そしてその後に楓秀也と氷室冷河の捜索が始まった。それなりに重要な国営の機関なだけあって広く、探すのには骨が折れそうだと感じた。だがすぐにジールは、二階に上った後に一旦引き返そうか示唆した。入口を固めて出れなくしたら同じ建物には三十分しかいられないということで勝利は確定ではないか、と。
その瞬間、サイレンが鳴り響く——。
「ジール、聞こえるか?」
その声は、楓秀也が発したものだった。近くにあったスピーカーから流れていることからどこかから放送しているのだと気づく。
放送など、放送室のような所でしかできないだろうと即断する。近くにいる館内案内の地図を見る。あった、五階だ。事務室のようなところとごっちゃになっているようだ。
良いぞとジールの脳裏に勝利に近付くことで生まれる快感と油断が生まれた。もう二人は上にしかいない。階段を使い、一階一階追い詰めるように上の階層に上がって行く。我が勝利まであと少し。
そして五階にたどり着いた。勝ち誇るように悠然とその廊下を歩く。目的地である事務室に到着する。先ほどまでにすれ違わなかったのならば、まだここにいるはずだ。ゆっくりとドアを開けて、その部屋の中に入った。
「何だ・・・これは・・・」
中の様子は散々なものだった。事務らしく溜めこまれている書類の数々はなぜか辺り一面に広げ、撒き散らされてその上には何か液体がかかっている。そして、窓のすぐ傍には赤い布がかけられていて、さらにその真下には一升瓶が置いてあった。横には水の入ったバケツがある。
楓たちの姿はどこにもなかった。放送用の器具の周囲を調べると、電源が入りっ放しになっている放送用のマイクと、それのすぐ傍に消防隊用の無線が置いてあった。
おびき寄せられた・・・ふと、ジールはそう感じた。しかし、一つ腑に堕ちないことがあった。どうやって下に降りたかだ。先にエレベーターを確認したが、面倒だと思い爆破して潰しておいた。
だとすると本当に逃げるための方法も、通路も無い。まさかあいつらは魔術師だとでも言うのかと、誰ともなく訊いてみたくなった。
これについてはただ彼は知らなかっただけだった。消防署には出動要請があった時に即座に車のところまでいけるように一本の長い支柱が立っている。そこを伝って一気に下まで降りて脱出していた。
窓際の赤い布にはもちろん意味がある。狙撃のための標的だ。正しくは瓶を撃ち抜くための目印。窓は一応開けられている。
突如外から響き渡る発砲音、ガラスが割れるような音が鳴る。拳銃の名手のような腕前で、氷室が一升瓶を狙撃したのだ。中に入っている液体が宙を舞う。するとそれは空中でいきなり発火した。
鼻の孔があろうとも嗅覚の無い彼には匂いが分からなかったが様子を見てすぐに分かった。油かアルコールかの二択だと。これは後者のタイプだった。楓が選択したのはウォッカという極めてアルコール度数の強い酒。それを撃ち抜く時の衝撃と熱で着火した。
「火攻めにして勝とうと言うのか!?甘いな!」
甘い、確かにそうジールは言った。どうせ下に行ったら勝ちだ。この建物から出られさえしたら。
でも、ヴァルハラの使者のお気に入りが、それほど甘くないとしるのは、消滅の直前の瞬間——。
続きます
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会話少なっ!