複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  第二十三話更新  ( No.33 )
日時: 2011/10/08 21:00
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Q9sui1jr)

第二十四話 ジール消滅







 紙屑が散らかり、液体の撒き散らされた部屋の中に弾丸が撃ち込む。目印として置いていた赤い布の奥にあるウォッカを発火させることに成功。撒き散らした液体も当然のようにウォッカ。アルコール度数の高い酒はすぐに引火して火力を強めてそれを紙達に受け渡す。物凄い勢いでつられるようにして炎は燃え移る。
 ここまでは作戦通りだと楓は心の中で良しと呟く。順調に事の進む喜びに似た感情、そしてそのまま成功して欲しいという願い、失敗するかもしれないという焦り、それらが一緒くたになって自然と拳を強く握らせていた。
 成功だと言った通り作戦は今のところ言った通りの事だ。楓たちは知らないが、ジールは良い具合に勘違いしていた。彼ら二人が火攻めにして焼き殺そうとしていると思い込んだジールは死に近づいた。本当の目的は全く違うと言うのに。
 氷室は少し前に楓の言った言葉を思い出す、相手のルールに乗っ取ってそれで潰してやるというのも礼儀ではないかと。

「さて、あいつらはどう出るんだろうな?」






「急げ!速く下に降りろ!」

 整然と並びながら骸骨の兵団は一糸乱れぬ動きで階段を駆け降りていた。先ほどエレベーターは短絡的に破壊してしまった。そもそもエレベーターよりも走る方が早いからそれほど関係無いのだが、こうも一斉に階段を下りるのは難しい。少数でもエレベーター側に送りこんでいた方が良かった。
 はっきり言って自分たちにはあの部屋から離れさえすればそれほど急がなくても良いはずだった。ここがこんな場所で無かったら。
 もうすでに、兵団とジールの体は少しずつ、塵のようになって削られていっている最中であった。ゆっくりと時間をかけるようにして指先からじわりと砂のように崩れ落ちる現象が広がって行く。苦痛は全くないが、何も感じられなくなること、それが一番消失の恐怖を駆り立てた。
 この建物は消防署だ。もちろんのこと火気は厳禁だ。それでも氷室と楓が何の罰も受けていないのは酒を普通は燃やさない、つまりは火気とみなさない事と、もうすでにルールの適用範囲外の道路に出てしまっていることが上げられる。
 というよりも、爆弾を使ったのに消えていないことが火気厳禁なんていうルールが無いことを物語っているかもしれない。
 そして、二人が使ったであろう一番の武器となるルールはおそらくこれだ。消防隊員とは火事を、火を食い止めるために存在する。彼らには炎を消さないといけないという義務があるのだ。要するに、炎は消さないといけないというものだ。
 それなのに、だからこそ秀也たちは先に来た時に二手に分かれていた。楓は部屋の準備、氷室は建物中の消火器の排除、隠ぺいだ。嫌でもこれでは消滅寸前に外に出る他に無かった。
 やっとの思いでようやく二階までたどり着いた。もう左腕の大半は失われている、胴体に突入するのも時間の問題だろう。急に、消滅という事態が恐ろしくなってくる。ふと、『あの方』の言葉をジールは思い出した。



———ああ、そうだ対等な条件にするために君たちにも罰は適用するから。ついで言うと消えたら治らないからね。



 要するに、もう彼の左腕は無くなったも同然だった。それでも、行きたい彼は外に出ようと走る。そもそも自分たちは生き残るためにこのようなげえむをしているのだ。
 必死の思いで、我をも忘れてやっとのことで一階にたどり着いた時に彼は目を丸くした。まあ、孔が開いているだけの目の形は変わらないのだが。

「何でだよ・・・おい!」

 この建築物のドアは自動では無い、普通の押したら開くガラスのドアだ。それが外からしらか無いように細工されていたとしたら、出れるだろうか。不可能に決まっている。
 外から楓は才能として授かった手品の才能の器用さできっちりと固定をしていた。救急車の中から担架や包帯の類を持ってきてドアにピッタリと括りつけていた。斜め十字に交差させるように二つの担架をドアに包帯できっちりと何重にもして結びつける。
 ジールの腕力ではびくともしない。そもそも、片手しか使えないのだ、タックルをしようにもバランスが取りづらい。
 こうなったら爆弾で破壊してやろうと取り出す。だが、このまま短気になってしまったら、自分まで爆風に巻き込まれる。少し後ろに下がろうとした時にポロっと手から手瑠弾は転がり落ちた。
 しまったと思って拾い上げようとしても、掴めない。覚えた感情は焦りでは無く、恐怖。右腕までもが、浸食されている。もうすでに、指が完全に無くなってしまっている。周りを見渡してみると他の骸骨も同じだった。
 両手が無くなり、本当に何をすることもできなくなったジールは助からないと心のどこかで思いながらもあがく。一筋でも光があるならば生にすがりたいと、強く強く。

「嘘だろ!違う違う違う違う違う!!ふざけるな!!!アダムの使者たるこの俺が!ここで!こんなことで消滅なんて!!有る筈が——無いっ!!」

 叫ぶ、狂ったように、雄叫びを上げて悲痛な叫びを。負け惜しみにも響くその切実な断末魔の絶叫を。

「なぜだ!?なぜこうなった!全てはあいつだヴァルハラの使者だ!須佐乃袁尊、いや隻眼の剛神の野郎だ!あいつだけはぁっ・・・」

 断じて許さない、そう言おうとした瞬間に喉仏が消えた。もうすでに彼は頭部だけになっていた。声を発することも出来ずにただ、消えゆく中で目の前の光景を傍観することしかできない。
 気付いた時には、視界中を白く真っ白な世界に包まれて、意識は対照的に闇に沈められていく。
 そういう光景を目に収めながら楓は罪悪感のような、深い悲しみにも似たようなものにさいなまれるかのような気分に陥った。




                                  続きます


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次回は、イクスの出番です
ヴァルハラの使者について少しは分かっちゃったと思います