複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十四話更新 ( No.36 )
- 日時: 2011/10/10 20:03
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: NHSXMCvT)
第二十五話 イクス覚醒
「何をどうしてこうなった?」
さっきからその言葉を自分の頭の中で反芻している。なぜ、ジールと応答が取れなくなってしまったかだ。それを訊いても、理由を知っている者は返答しない。まさか、殺られたなんてことはないだろうなと、彼は危惧する。いくら最低位に位置しているとはいえ、何をしているのだと。
あまりの返答の無さにそろそろ苛立ちも現れてくる。それほどまでに、楓秀也は手強いと言うのか。誰かを問いただしてみたいが、唯一の話相手でもあるジールは、返事を返さない。
そろそろ嫌な予感も脳裏をよぎってきた。楓秀也にすでに殺られた可能性が高いかもしれないと。このままではイブ様の焦りと怖れに変わると、あれほどまでに士気を高めていたのに、あの役立たず・・・
確かにジールが死んでしまっているとはいえ、まだ確証の無いことをとやかく言うことは自分でもどうかと思った。
すると、幹部の一人からの、いや、アルファベット組の最高位に位置する彼からの連絡が届いた。
「連絡だよ、僕たちとしては残念なことに、ジール君が死んじゃったんだ。楓君達すごいね〜。いや、どちらかと言うと楓君が、かな?だって氷室ちゃんはただ楓君の言うとおりに動いてるだけだったもんね〜」
イクスは空を見上げて、心の中に衝撃が訪れるのを感じる。ジールが、本当に、死んでいた。その事実は彼の胸を抉るように響いた。だから無理をせずに着いて来るなと言っただろうと強く歯ぎしりをする。
ここに来る前に、イグザム様を先頭にして誰が着いて行くかをアダム様が問うた時に、真っ先に名乗り出たのがジールだった。いくらイクスがお前には向いていないと止めても、聞く耳を持たなかった。
お前みたいに形振り構わず突き進む者がこのように頭を使うパターンのげえむに参加しない方が良いといくら言ってもだ。
そういう意味では、彼は聖騎士団らしくなかった。聖騎士団とは、騎士のように崇高な使命と知識を持って我が手で未来を切り開こうと必死なだけだ。
ただ孔が開いているだけのはずの目から、なぜか涙のようなものが落ち、頬を伝う。前を見ることもできるが、このようなことは今まで無かった。人間のように涙を流すなんて・・・
そうか、そういう意味では自分も聖騎士団らしくないのだな、と今さらながらに自覚する。
聖騎士団の根底に潜んでいる信念は、弱者に待つは死あるのみ。だからこそ、このような残酷なげえむを実施できる。その上、身内であるジールの消滅も、大した精神的な打撃にはなっていないのだ。ただ一人、イクスだけを除いて。
ようやく感じ取れたその理不尽さに拳を痛いほどに握り締める。なぜこのように、仲間に対する強い慈愛という感情を持ってしまったのだろうか。それさえ無かったら自分もちゃんと聖騎士団らしいのに、こんな陰鬱とした感情になることは無いのにと、歯がゆくなる。
愚かな仲間が一人減っただけ、そう言葉にすることはできても、その先が無理なのだ。それを当然のように振る舞い、切り替え、口聞けぬようになった勇敢な使者に対する冒涜を吐ける気がしなかった。
分かっている、こんなに甘い自分では駄目だと、敵と闘うことに、仲間を減らすことに躊躇してはいけないと、だけど心はひとりでに動く。
昼に近付く午前十一時、何者かの声にならぬ大きな叫びが轟く。去りゆく友に対する哀しみ、理不尽な、慣習とも呼べる心の根底に巣食う信念に対する憤り、よくも同胞を消したなと、挑戦者に対する憤怒。それらが爆発し、音という形になって邪悪な戯曲の構成する音波の一つに変わって行く。
決断はできた、修羅となる。何をすることもいとわない、全ての行為にム感情に取り組める強靭な冷酷さを保とうとする。鬼の道を歩くと、悪魔と言われようと構わないと。
「楓秀也・・・氷室冷河・・・竹永叶・・・楠城怜司・・・斎藤麗美・・・全員、ぶっ殺す。お前たちには生にすがる隙すら与えない。」
後ろにたたずむ悪鬼のような骸骨の兵団にイクスは向き直った。これは革命だと。上層部の考えを変えるほどに自分が活躍すればよい。そもそもこれは何のための闘いだというのだ、我々が生き残るために闘いだ。それなのに、仲間が死んだらそいつが悪いと飄々としているだけというのは、信じたくない、あって欲しくない。
それに応えるようにした訳ではないのだが、それを察したかのように彼らは気合いを入れなおすために、銃口を天に向けてジャカッと音を鳴らして持ち直した。
それを目に収めたイクスは、すぐ近くにいる竹永達の元へと、向かう。
続きます
_______________________________________________
斎藤の下の名前決まりました。
麗美です。時間かける割には普通すぎるっていうね。
今回イクスの単独の話。きっと退屈だったでしょうが申し訳ありません。
次回は久々に竹永達の出番です。
では、次回に続きます。