複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十六話更新 ( No.40 )
- 日時: 2011/10/17 21:50
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8TfzicNZ)
- 参照: DARK GAME更新ラッシュの始まりー
第二十七話 追う者と追われる者
市街地で、次々と爆炎が上がる光景を誰が見たことがあるだろうか。平和な日の本の国に生まれた人々はほとんどいないだろう。戦争の体験者は見ていても当然だが、その後に生まれた若者は皆が知らないだろう。そんなことはもう、画面の中や紙の上でしか見ることはできないだろうと何年も思っていた。そんな状況に直面したくはないとも思いながら。
現実的にその状況に直面した今となっては、やはり意見は変わらず絶対に直面したくない。なぜなら、簡単に死んでしまうからとしか言いようが無い。まだまだやり残した事もしたい事も沢山残ってしまっているし、死という物は本当にとても怖い。永遠に、他人との干渉を隔絶される。
今、すぐ後ろ五百メートル地点の辺りから、さっきからずっと耳をつんざくような爆発音とともに、天をも焦がすような激しい爆炎が立ち上り、黒い煙はもうもうとその姿を見せている。爆発音の中にコンクリートの倒壊音が入り混じり、その威力を効果音だけで伝えてくれている。
十年程度前に、どこかの国で起こったテロを間近で直面した人々はやはりこんな気分だったのだろうかと、楠城はふと示唆してみた。
「どこが知性あるリーダーだ・・・理性すら無いじゃないか。誰だ、こんなことをするように指示したのは・・・」
まだ対面すらしていない、名前も知らない相手に、聞こえなくともクレームを付けていた。さっきからずっと、音の大きさが変わっていないことから自分たちと同程度の速さで迫っていることが分かる。とするとだ、このまま逃げ続ければその内弾薬等が切れてもはや戦力として機能しない。そうなったらもうこの行動の原因の首領格には怯えなくて良い。
「何だかいきなり吹っ切れた感がありますよね。ジールさんでしたっけ?が消えたという報告が入ってからのあの咆哮の後にいきなり遠くから爆発音が上がったんですから」
楠城も、確かにそれはそう思っていた。一応奴らの仲間が消えたのだ。少しのダメージも無いということは無いだろう。あったとしたらどれだけ薄情な集団だ。
まあ、やり過ぎもどうかと思うがな、と楠城は失笑する。行き過ぎた愛情が相手から冷められて見られるように、行き過ぎた情熱や友情もその身を滅ぼす要因となるのかもしれない。
「楓、氷室の二人は無事に済んでいるどころか、成果を上げた。だったら俺達も一人ぐらい・・・」
そうぶつぶつと呟きながら堅苦しい顔つきをしている楠城を眺める竹永の目には、心配そうな色がうかがえた。責任感を勝手に背負って、根を詰め過ぎて死なれては困ると、竹永は楓と分離してからずっと考えていた。杞憂に終わって欲しいとも思いながら、気軽に口を挟む訳にはいかないような雰囲気に呑まれて、何を咎めることもできなかった。
こういう時に、楓なら一体どうするだろうかと、空を見上げて心の中で詰問する。答えてくれる楓は、こんなところにはいないというのに。
「神様に祈りたくなったのは初めてかな・・・」
だが、その神様でさえ敵だということを未だ彼女らは知らない。それだけではない、このげえむの真の意味や、主催者の正体を。自分たちが本当に巻き込まれているのは何かということにも。
斎藤には、どのように対応すればいいかなんて、全く分からなかった。竹永に口を出すことも楠城に何か言うことも自分にとっては難しすぎる偉業のように感じてしまっていた。
その光景を見て喜んでいたのは、他ならぬ主催者だということは、聞くまでもなく彼にとっては明らかだった。薄暗い空間に閉じこもっている彼にとっては、苦渋の顔しか浮かばないが、茶化すような口調のあいつにとっては最高のショーだと思われる。
「くそっ・・・楓秀也だけが生き残っても意味が無いんだ。この五人が生き残らないと。イグザムが出てきていないのにこの様では・・・」
イクスやジールなど問題ではなく、最も注意しなくてはならないのは、今回の場合はイグザム。幹部入りしているだけあって、相当に頭の回る奴。容姿は特に、骸骨という訳ではない。V以下の称号を持つ者が骸骨のような姿をしている。
「それにしても静かだな。イグザムは動くつもりがあるのだろうか」
気まぐれな使者は、未だに動こうとしていない。
「あの爆発・・・先輩たち大丈夫かな・・・」
イクスという、使者の内の一人が起こしているであろう暴動に、気を配っている楓はさっきからずっと心の落ち着く瞬間が無かった。絶えず聞こえる爆発音には全てを破壊してやると勧告しているような声が聞こえてならない。
「大丈夫よ。爆発音が止むということが目標の死滅を確認ということなのだから」
それを少しでも落ち着かせようと、氷室は正論を説く。それでも、あまり心配の虫は静まらなかった。落ち着いていたら、スーパーの時のように珍しいことがあるなと、追及してくるがそれすらもできない焦燥感。
それに対して、氷室は一つ疑問を抱えていた。なぜ、このように竹永はただ単なる先輩後輩の関係以上に楓から尊敬され、思慕の念を送られているのか。特にこれといった理由は思い浮かばなかったが、無性に訊きたくなった彼女は訊いた。
「理由・・・か。分かんない。多分、あの人と比べちゃうんだろうな」
何も言わずに去って行った最も慕っていた彼の姿を思い出す。最近になって知ったことだが、彼が去った理由は離婚、ということで実家に帰ったらしい。
「あの・・・人?」
それ以上訊こうとしても、どこか訊けないようなプレッシャーがかかっているような気がした。
そして二人はついに、イグザムに目を付けられるということになる——。
続きます
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はい、今日から一章の鬼ごっこ終了までこの小説をずっと更新します。
一日か二日に一回のペースで行きます。
では、次回に続きます。