複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十七話更新 ( No.41 )
- 日時: 2011/10/21 18:55
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Ikb4yhFE)
第二十八話 イグザム降臨
「五月蠅いぞ、イクス・・・」
爆撃音に取り囲まれて、瓦礫の散乱する現実離れした市街地に、さっきから全く姿を現していなかった人型の何かがそこにいた。美しい雪のように厳かに煌めく、白銀の髪の毛。上質なエメラルドのように綺麗な、透明感あふれる翡翠色の眼。それは、彼が負っている使命とはかけ離れるほどに淀み無く、何度も言うように澄んだ瞳をしていた。端正に整った顔は冷静な雰囲気を発し、西洋系の顔立ちを示している。
さっきからずっと鬱陶しく思っていたと、反吐が出るとでも言うように爆発音に対して文句を言う。最も、無線を繋いでいないのだから全く本人には聞こえていないのだが。
「楓秀也がこっちでジールを消したはずなんだが・・・どこにいることやら・・・」
ふぅっ・・・と誰もいない町中に消え入るような溜息を吐きだして、面倒くさそうな色を露わにする。人間一人になぜそこまで恐れる必要があるのか、それも全く腑に堕ちない。先代も心配症なのだなと、今さらながらに面倒になる。
アダムの使者には二十六人の人員がいる。アルファベットの称号を与えられた彼らはさるお方の唯一の側近たるアダムを先頭としているのでアダムの使者。だが、聖騎士団にはアダムが側近として控えている実質的な最高位の者がいる。それは、先代の『E』の称号を持っていた者。
それまでイグザムは、どの階位にいたかと言うと、どこにもいなかった。最高位の彼女と、アダムとの間にいきなり子ができた。それは、難なく十カ月後に出産された。その瞬間だ、あのお方の力がいきなり増加したらしい。元々の彼女の力はどれほどかは知らないが、昔は必ずアダムよりも弱かった。しかしそれがいきなりアダムを圧倒した。では、この子にはその弱みのような物のみが凝縮されているのではないかと危惧する者もいたが、そんな心配は無かった。幼い彼は知力という才能を生まれたその次の日から開花させた。それが、イグザム——。
「母さんも、本当面倒なの押し付けてきたよなー」
ボスだからって良い気になんなよ、将棋だったら全勝だと、聞こえないように悪態を吐いた。
そして一つ思い出す。こんな風に吹けば飛ぶような奴らが一つだけ、殊勲を上げていたことを思い出した。
「つーかジールは何してんだよ。ヴァルハラの使者のお気に入りって言ったってただの人間の餓鬼な訳。ちっと本気出しゃあすぐに片の付く問題だろうが。だらしねえな、流石最低位だ」
ヴァルハラの老いぼれは本来もうとっくに死んでいるはずの奴だというのに、二度も軌跡が起こって生き延びている。死人は墓場に行かないと駄目だろうが、仲間が待ってんぞ、と嫌味を言ってみた。
それにしても何で骸骨組しか動いてないんだよと、舌打ちを鳴らした。遥か遠くの爆発音意外に、ノイズの無いこの空間にそれは簡単に響いた。『V』以下の連中は箸にも棒にもかからない馬鹿どもだというのに。
「アダム父さんとかDeathのじじいが出てこいっつーの」
将棋は互角だけどチェスでだけは未だにDeathには勝てないというどうでもいいいことを思い出す。戦士の生き帰らないこの状況ではDeathの方が適任だろうと、振り返る。
とりあえず、楓秀也とか見つからないかな、と呟きながら辺りを見渡す。多少の物音も拾いたいのだが、地味な爆音が耳を塞いでいる。
「つーかジーニアスでも良い訳。何で幹部が出陣?まあ、本気出した俺が負けたらちょっとは認めてあげる訳」
—————面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒—————。
「だるいんだよっ!」
生死を賭けた戦争も、楓秀也抹殺も、あのクソ婆が母親だということも、アダムの息子だということも、アダムの使者だということも、全部全部気に入らなかった。
自分は、アダムの使者なんかよりも、人間として生まれたかった。楓のような友人が欲しかった。竹永のような先輩が欲しかった。楠城のような父が良かった。アダムのせいで自分にも軽はずみな根性が座っている。
「楓は本当に、僕にとってお気に入りなんだよな・・・ボードゲームで闘いてぇ・・・」
勉強さえしたら人間界なんて最高の世界だと思っている。向こうには将棋とチェス意外にも面白そうなゲームがありふれている。生死のかかったげえむにも刺激はあるが、そろそろ飽きが来る。
「監視役の須佐乃袁尊もそろそろ出てこないかな?あの隻眼の野郎にも多少の腕はあるだろ。ま、須佐乃袁尊自体には両の眼が付いていることになっているがな」
そうそう、片目なのはヴァルハラにいた時だと頷く。高天原では、両目に見せかけていたのだから。
「さあ、彼の歴史に終止符を打とう」
そしてようやく視界の端に映った楓秀也に狙いを定める。
「その前に、楓と氷室からいこうか」
続きます
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面倒の辺りはゲシュタルト崩壊しそうになりました。
そろそろ詳しい人はヴァルハラの使者の正体が分かったはず。
言わないでね・・・