複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  第二十八話更新  ( No.42 )
日時: 2011/10/20 20:40
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: GIxrqpJQ)

第二十九話 イグザムの策







 見つけた——。そう、歓喜の声が心の底から湧き出て、叫び出しそうになる。だがそんなことをいきなりしてしまうと折角見つけた標的が逃げてしまうかもしれない。昂ぶる気持ちを冷静になるように落ちつけて、自分の支配下にある骸骨どもを全集合させた。一つ捕捉を入れると、骸骨の兵団は人間のなれの果て、正確にはアダムの使者ではない。
 あの二人は確実に、楓秀也と氷室冷河・・・やっと、やっとあの二人に出会える。黒髪で黒い瞳の完全な純日本人的な容姿。発せられる暖かい雰囲気と対照的な冷たいもう一人。
 イグザムは内心、興奮が抑えきれなかった。武者震いが全身を揺らして、ゾクゾクと冷たい寒気にも似た高揚感。さあ殺し合いを始めよう、と歪んだ喜びが体の芯を這いずり回っている。
 抑えきれない渇望は遂にはち切れて、その瞬間に彼らの目の前に颯爽と降り立った。自慢にもしている白銀の髪がキラキラと日光を受けて煌めいている。案の定、二人はいきなり現れた自分に対して驚きの感情を隠すことができずに見せつけている。
 やりすぎたか・・・と少々先程の自分に対して嘆息する。思い返すと狂気じみた狂喜だったからだ。まあ、公平な殺し合い<ゲーム>を楽しむためには一旦落ち着いてもらいたい。迫りくる兵団共の武装の擦れる金属音に戦慄を感じているようにしか見えない。
 その場で立ち止まるように大声で指示をする。重苦しい騒音は止んだ。

「まずは自己紹介。僕の名前はイグザム、アダムの使者で『E』の称号を持つ幹部の一人さ。それよりもさ、早く始めようよ。ずっと君と闘いたくてうずうずしてたんだよ。あっ、変な意味じゃないよ。火とか使うエスパーみたいなのじゃなくて知略戦だよ。だから今から五分の猶予を上げるから早く逃げてくれる?」

 戦々恐々としている二人を落ちつかせるためか、彼はポンっと、軽く方に手を置いた。その掌から楓の肩にまるで人が持つような温もりが伝わってきた。飄々とした余裕のある態度、そしてさっきの言い草から即座に察した。こいつは、ジールのようないわゆる三下とは全く異なっていると。

「五分も猶予なんてくれて、大丈夫なのか・・・・・?」

 その驕りにも似ている余裕綽々の態度に、楓は舐められたかもしれないという少しの苛立ちと幹部のまだ見ぬ実力に向けた恐れで緊張が緩むことは無かった。余計に表情は強張ってくる。

「いいから早くしてよ。君なら僕を盛り上げてくれると期待しているんだからさ」

 ケラケラと、無邪気に笑う彼の姿は幼い子供そのものだった。この瞬間に察した。こいつは現状に飽き飽きしていると。“君なら盛り上げてくれる”ということは要するに、一緒にいる奴らは盛り上げてくれないということだと。

「お前、そんな所にいて楽しいか?」

 楽しげな笑顔の下に隠れた陰鬱な表情が見えたような気がした楓はふと、そう訊いてみたくなった。上辺だけ見せかけていたって、見える人には本心は見えるものだ。

「今だけはね、君と遊べるこの瞬間は最高にぞくぞくしてもう最っ高!だから、早くその手で火蓋を切ってよ。君と話しているのも良いけど、やっぱり敵対した方が楽しいんだ、だから・・・早く殺し合おうよ」

 殺し合う、その言葉を聞いた時、言いようの無い恐怖に襲われた。さっきまで馬鹿みたいに笑っていたのに、いきなり出てきたこのプレッシャー。一瞬だけ、指先一つすら動かせないかと思うほどだった。
 淀みの無い透き通った翡翠色の眼からは貫かれるような殺気が、射抜いているように感じられる。このまま時間が凍結するかとまで思ったほどだ。隣の氷室に声をかけられるまで。

「楓、早く行くわよ。痺れを切らす前に・・・」

 ハッと彼は現実に戻ってくる。目の前の銀髪の少年の表情も笑顔に戻っている。一旦の落ち着きを取り戻した彼は策を練るために、時間を稼ごうと遠くに向かって走り出す。
 その光景を見て、やっと踏ん切りがついたかと、憐れむような目で氷室が見てきた。それに対して少しむっとしてしまったことから、かなり自分の気持ちは元に戻りかけていることを感じた。

「ま、逃げても無駄なんだよね。もうすでに僕の策は始まってるから」

 ちょっとズルさせて貰ってるけどね。そう呟いて空を見上げた。びっくりするほどにその空は眩しい。青く青く澄んでいる。いつかは海も見てみたいと、心の中で切望した。






「そろそろ・・・五分経ったか?」

 必死で逃げだした二人は複雑な経路などを通って、地元民、つまりは楓と竹永ぐらいしか上手く通れないような細く、迷路のような路地を突き進んでいた。
 一旦この辺りで休みながら策を練ろうとした時の話だ。氷室の表情が少し陰る。どういうことか問いただしてみると、音が聞こえているらしい。
 下手に動いて鉢合わせたくないと思った氷室はもう少し様子を見ようと思ったが、そう悠長なことは言ってられないことにふと気付く。確かにその音は、こちらに向かって近づいて来ている。
 どういうことかと考えている暇は無く、二人は休息を止めて駆け出した。腑に堕ちない、そんな気分を心の中に浮かべながら。この辺は住民の自分でさえ転校してから慣れるまでの二年はかかったというのに、それをすぐに・・・
 楓がそのようなことを不安げな想いで考えている時、イグザムは確かにその音の発信源であり、まっすぐ二人の下へと向かっていた。

「やっぱりそうだよね。最初に幹部だと宣言しておくと、必要以上にびくびくして上等な策ばかり使うと思いこむ。もっと簡単な策が目に見えなくなるんだよ。今僕が君たちを終えている理由は、さっき肩に手を置いた時に発信器を付けさせて貰ったんだよね。まさか、幹部がこんなこすい手を使うとは誰も思わない。でも、盲点っていうのはとても怖い。さあて、彼はどうやって生き延びてくれるかな?」

 今までの人生・・・人でないから人生とは呼べないかもしれないが、これまでの中で最も、彼が生き生きとしている瞬間だった。





                                            続きます



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何と言う陳腐な作戦・・・自分の発想力の無さが思いやられます。
かといって戦略なんて募集したら読む人的に面白くないのでしませんが。
遂に幹部が動きました、では次回に続きます。