複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  第三十話更新  ( No.49 )
日時: 2011/10/24 17:30
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: OGmuT4jt)

第三十一話 反撃開始







「ん?発信器の動きが止まったな・・・そろそろばれちゃったかなー?」

 手元のモニターに映っている光の点の動きが止まったことに違和感を感じたイグザムはふと呟いた。さすがにそろそろばれていてもおかしくはないだろうが、少々発覚するタイミングが悪いな、と感じていた。
 さっきまではずっとこの機械の動きで追えていただけであって、入り組んだ道をノーヒントで走りまわれるとは思っていなかった。せめて、この細い路地裏を通り抜けてくれないと、大勢での隊列が組めないので普通の道に出てからの方が断然いいと、軽く舌打ちをする。
 一旦歩みを止めて思考していたのが悪かった。この瞬間はまだ楓が氷室を怒らせている真っ最中で、今詰め寄れば楓達にとって絶体絶命だった。しかし、次の策を考えている時間が二人に隙を与えてしまっていた。

「とりあえず、行ってみるか」

 十秒ほど思考を張り巡らすも、現状を見ないと分からないと判断したイグザムは再び歩を進める。結局こうなるのだったら手を打たれる前にした方が良かったと、自分の躊躇いに後悔する。
 それを反省したいのならば、この後の行動を迅速にするのだと焚きつけて駆け出す。少年の体では少し走るのは遅いが、人間とは性能が違うので、体力は底なしにある。その内尽きるのだが、人間の十倍程度の持久力は悠に持ち合わせている。
 もう一度、壁との感覚が狭い路地の中に、五月蠅い金属音が鳴り響く。耳障りだから銃は1人の兵士あたり一丁だけにしてくれと思う。本人たちの動きも制限されるし、丸腰の連中を殺るだけならそれほど大がかりな装備は必要ではない。
 もう一度、画面の中の光が動きだした時に、より後悔の念は強くなる。動きだしたならば一旦立ち止まっただけであり、おそらくまだ気付かれていないと踏んだイグザムは速度を上げる。

「さてと、いつになったら追いつけるかな?」

 モニターの中に精神を集中させてどのように俺曲がったりして移動しているのか深く確認し、現実で路地を眺めて照合し、後を追う。そのような天才的な脳内変換も彼にとってはお手の物だった。
 だが、人の心の中までは完全に読み取れない。多少こんな風に考えているだろうという予測は付けられるが、それに至っては確証は持てない。

「・・・・・・・・あれ?」

 またしても発信器の動きが止まった。この先百メートル程の所を曲がってすぐの辺りだ。どうなっているのやらと、十数秒考えた後に曲がって見て遂にその訳が分かった。
 やはり、発信器はすでにばれていたようで、発信器を付けたカッターシャツがおもむろにその辺に放置されていた。しかも、左右に分岐する分かれ道の右側に。
 ここで少し考察する。なぜそのような中途半端なところで脱ぎ捨てられているのか。主に挙げられる理由としては・・・

1、気付いてすぐ捨てたので、通った道の上に放置。
2、そちら側に逃げたと思わせるため。

 1はおそらく無いだろうと反対側、即ち左側の道を見る。こっちか、とも考えたが楓は頭が回る奴。ここまでの自分の思考も予測しているだろう。だからこその、自分の通る側にシャツを脱ぎ捨てたと決めてイグザムは右側に顔を向ける。
 これ以上の裏の掻き合いの堂々巡りは面倒な上、そこまでしたところで逃げ切れる確率は二分の一しか引き当てられない。楓は賢いのだから二回裏を掻いたら満足するだろうと、シャツのある方向に目を向ける。しかし、何かあったら困るなと反対側も少々気にかけるが気付く。向こうはイクスが阿呆のように大暴れしていると。
 そんな所に行くはず無いのだから真っ直ぐシャツのある方向に走りだす。楓が1のような答えを引き当てるとは信じ難いが、戻って来ているという選択肢は最もありえない。それならばすれ違っているはずだと、打ち消すことになるからだ。
 だがここでもう一度考え直す。本当にあのシャツには意味が無いのか?という事だ。まさかと思ってどけてみると、そこには蓋の外されたマンホールの穴が開いていた。

「やっぱり、楓は最高だね」

 もう少しで騙されるところだったよ、と楽しそうに満面の笑みを浮かべながらそこをマジマジと観察する。ここは確実に軍で通るのは難しいだろうと考えたのだろう、やはり楓は最高の好敵手だと感慨にふけっている。
 そして次々と、骸骨たちは薄暗い穴の中に飛び込んで行く。最初に五体ほどの下っ端を送りこんでその後に将たるイグザムが飛び下りる。そしてその後を追うように余りの兵士はぞろぞろと付いて行く。

「さてと、もっと僕を楽しませてよ、楓君」

 イグザムはこんなものではまだまだ物足りないとでも言うように目をぎらつかせている。声が飲みこまれると共に、闇の中に銀髪碧眼の彼は消えた。
 だが、イグザムよりもこの時ばかりは楓の方が策を考えることに関しては優れていた。

「ふう・・・作戦成功」

 物陰から楓と氷室の二人は現れた。つまり、前進も後退もせずにただその場で待っていた。イグザムがどこかに進むと勝手に予測をしたのだが、それは見事に的中した。

「ようやく、本調子出てきたじゃないの」

 その様子を満足げに見つめながら氷室は頷いている。
 帰ってきた凛々しい彼の表情にやや赤面しているのは果たして彼女は知っているのだろうか——。



                                            続きます



________________________________________________


ではでは次回に続きます