複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第三十五話更新 ( No.56 )
- 日時: 2011/10/31 22:23
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ORsSFBrg)
第三十六話 登場、ヴァルハラの使者
手元にある一つの木塊を見つめる。表示されているのは、もちろんのごとく『OUT』の三文字。次に、ジェンガから一本引き抜いて、名指しされた人間が死ぬこととなる。
ゆっくりと、そこに手を伸ばしていく。だが、まるで遥か彼方にあるように、そのジェンガには手が届かない。倒したらだめだと自分を律して、カタカタと振るえるその右手を抑えつける。
目には涙がうっすらと浮かび、もう少しで声を上げて泣き出してしまいそうなほどだ。落ち着かせようとしても落ちつく訳が無い。大切な仲間が、横にいる者が自分のせいで死ぬかもしれないという恐怖は、一概の女子高生には重すぎるプレッシャーだった。
これまでどれほど大きな大会でも、生まれる緊張は全て打ち消して臨んできた。だが、今回のこれはどうだ?いつになっても収まるような気配が無い。頭を抱えて躊躇し続ける以外に何かを起こす活力なんて無かった。
「怖い・・・」
敵であろうと味方であろうと誰かの命を奪ってしまう、その重圧が小さい一人の人間に重くのしかかる。生にすがる一筋の光は次第に、他人の命を奪うというおぞましい恐怖にかき消されそうになる。
いっそ、自分の名前でも引きたい気分だった——。
「竹永・・・」
そんな空に閉じこもった状態に陥った竹永に楠城はできるだけ優しく声をかけた。ここで最も恐れている事は、ジェンガの倒壊による竹永の敗北。それは、誰とも知れぬ被害者よりも標的が確定されている死。
それを防ぐために楠城は声をかけたのだが、あまり耳に入っていないようだった。強い感情は彼女の五感をことごとく奪っていた。目の前の景色が見えていながらも意識として頭に入っていないような感覚。
「聞いているのか?」
もう一度、少し声を大きくして話しかけてみるが応答しようとする気配はまるで無い。駄々をこねる子供のように他人の言葉は伝わっていない。
これ以上似たような声で竹永に呼び掛けるのは無理と察した斎藤は強硬策に出た。
「聞いているのって訊いているでしょ!」
お互いの間合いを、歩み寄って詰め寄らせ、すぐそこの場所から大声を張り上げる。普通の人間なら軽く驚くところだが、錯乱している彼女にはほんの少し何か聞こえた程度にしか響かなかった。
「くよくよせずに早く引きなさいよ!何を怯えているの!絶対にイクスの名前を引いてやると思うのよ!まさか・・・ここにきて殺してしまうのが怖いとか思ってないでしょうね?良い?こいつらはもうすでにその禁忌を侵しているのよ。それへの制裁だと思いなさい!」
激を入れるために斎藤は腹から力を絞り出し、激励の怒号を上げる。間近で聞いている竹永は、ポカンとした顔つきになる。だらしなく口は開き、目は丸くなっている。
単純なショック療法だが、それだけで彼女は吹っ切れたようだ。氷室と向かいあっている時のように凛とした強い顔色、それを見た斎藤は満面の笑みを浮かべて背中を押した。
「さあ、やってみなさいって」
今度はしっかりと、パーソンジェンガに向かって立つ。どれを選ぶかは、これから考える。
—————考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ—————
「こういう時に、楓ならどうするっけ?」
こういう時は楓はできるだけ良い方向に考える。どのようにみんなを死なせずに、みんなの名前を引かずに済むかではなく、どうしたらイクスの名前を引き当てるかを考えるはずだ。
だが、どうやって引き当てる?その方法が出てきそうで出てこない。後少し、もう少しのところまで出かかっているのに、最後の一歩が踏み出せない。何か自分で言ったような気がしないでもない。
『いっそ、自分の名前でも引きたい気分だった』
「それだ!」
自分の取るべき札がようやく分かった。真っ直ぐ、竹永は自分の腕を伸ばす。生に向けて、現実に帰るために。淀み無く、歪み無く、震えることなく真っ直ぐに。その姿には、イクスも何だか考え込んでしまった。とある事に。
「私が取るのは・・・十一段目の真ん中の一本」
今積み上がっている高さは十二段、位置で言うと十一段目は相当に上の方だ。そもそも最初にあったのは、十階層。最初の位置よりも高いことになる。
「そういうことか・・・竹永も考えたな」
楠城もようやく彼女のしようとすることを悟る。唯一悟ることのできていない斎藤は表情に疑問符を浮かべる。よって、楠城が解説を入れた。
「最初にあったのはたった十段、つまりそれよりも上にあるあのブロックは一度引いている。二回目に引いたのはお前だ。覚えているだろう?あの時名指しされたのが誰かを」
斎藤が目を見開いた。確かにそれなら、確実に被害者を狙っていける。これは確かに最良の策。その抜かれた木に刻まれる名は、間違いようの無くイクスという片仮名三文字。
「・・・・・やっぱり」
緊張の糸が切れたように竹永がその場に座り込む。顔からは生気が抜けたように真っ青だ。駆け寄った斎藤が支えとなり、姉のように優しく包み込んでいる。
「あ〜あ、イクスも死んじゃうのか〜。どう気分は?」
「清々しいな、こんな時なのに。アダム様・・・あなたは生きて下さい」
「もっちろん」
その浮かれた雰囲気に迎合するようにアダムの冷やかしのような文句が入る。だがそれに対して冷静にイクスは返した。あなたは生きてくれと。
当然のことのようにアダムは了解する。その次の瞬間、楠城が黒の天井に向かって問うた。
「で、俺たちは生きて帰れるのか?」
「その説明は私がしよう」
アダムに答える暇すら与えずに、間髪を入れずに一人の青年のような者が現れた。すぐ傍に楓と氷室を連れているが、その二人も何が起きたか理解していないのか、驚愕の表情を浮かべている。
「まずは自己紹介だ。私のことはヴァルハラの使者と覚えてくれたら結構だよ。楓秀也、竹永叶、楠城怜司、斎藤麗美、氷室冷河」
続きます
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ついに、あいつが登場。正体明かす気無いね、これじゃ。
さて、冗談抜きでもうすぐ一章完結・・・っていつの間にか参照500だ・・・
人によっては少なく見えても俺にとっては多いんです!
やべ・・・字数が・・・じゃ、次回に続きます。