複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  第三十六話更新 ( No.57 )
日時: 2011/11/01 20:27
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ORsSFBrg)

第三十七話 Return to the daily life







「ヴァルハラの・・・使者?誰だ?」

 至極当然の疑問を楠城が口にする。竹永もそれを一拍遅れてそれを訊こうとしていたが、先を越されたので口をつぐむ。斎藤を含むその三人が比較的落ち着いていたのに対し、楓と氷室は呆気に取られていた。
 なぜか、その理由は当然。竹永達は知らないだろうが、二人は市街地でぼうっと突っ立っていたらいきなりこんな所に飛ばされたのだから。それも、合った事の無い男に連れられて。

「私の名前?どうでも良いことだろう。一つ言うとしたら私はお前たちの味方だ」

 ヴァルハラの使者と名乗る彼は、古めかしい言葉を流暢に使いこなす。いつの時代の人間だろうかと思うほどだ。
 しかしそこには嘘を吐いているような堅苦しさが含まれてはいなかった。このげえむのおかげでそのような能力は育ったらしい。

「味方?あまり信用できないのだけれど?」

 少しずつ落ち着きを取り戻してきた氷室も、舌戦に参加する。いきなり現れた上に、敵側ではないとも断言できない。その点を追及していこうと楠城達に持ちかけるように、侵入者に吐き捨てる。

「ふむ・・・では仕方ないな。では、私が知りえる情報ならば一人一つずつ、好きなものを教えてやろう」

 信用を得ようとしているのか、彼は申し出る。一人ずつ、知りたいことは何でも教えてやると。だが、だからと言ってどうなるのかが分からない。今何か訊いてそれに答えることが敵対しない表明になるとは到底思えない。
 最初に、その提案を受け入れたのは他ならぬ楓だった。不信感という刺々しい感情が立ち込める中、彼一人が信用したかどうかまでは分からないが、毒味感覚で訊いた。

「俺たちは、一体何に巻き込まれたのか」

 必要最低限、知りたいことだけを簡潔に述べてその他の言葉の一切を排除して淡々と、単調に言う。やはり少しは不信の念があるようだ。
 だがそうだとしても、彼は眉ひとつ動かさずに質問に答える。

「お前たちは、人類と神々、それらの生き残りを賭けた戦争に巻き込まれた」

 その瞬間、その空間に微妙な雰囲気が浮き彫りになる。神々?このオヤジいい年して何言っているの?と、憐れむような色が目に浮かぶ。
 その中でも冷静に事をそのまま理解しようとしているのは、質問者たる楓だった。そんなことを彼が納得しているのはそういう風に突飛な説明でも付けない限り、こんなげえむなんてできる訳がないのだから。

「では・・・敵の名前は何だと言うんだ?さっきのアダムとかいう奴か?」

 それに便乗して問いただし始めたのは楠城。少しでも信用するための条件を得るには、もし相手が向こうの一味だったとすると、仲間の情報を明け渡さないだろうというもので、答えたのならば信じられる。先刻申し上げた通り、自分たちには多少の嘘を見抜く力はついている。

「敵は聖騎士団。ボス一人とアダムの使者総勢26人が配下としてついて・・・今は24人だったか。合計で25人だ」

 やはり、嘘を吐いているようには見えない。ひとまずこの瞬間だけは信用しておくことにした。
 次に質問したのは竹永であり、もうその頃には彼女も半分以上彼は信用するに足る者だと思っていた。

「げえむって何なの?」
「げえむはだな・・・人間の中でも有力な者どもを強くするという大義名分の下その実大量殺戮するための方法だ」

 根本的な、今まで行われていた邪悪な遊戯のことについての質問だった。そして発覚する、一番最初にアダムが言った、強くするという言葉は偽りであり、危険因子を片付けるだけだと。

「そろそろ時間が無くなってきているぞ・・・訊きたいことが無いのなら、くだらないことでも良いぞ」

 それを耳にした氷室はふと思いつく、ずっと、心の端に引っ掛かっていた何かを外したいと。だが、そんなプライベートなことを知っているかあやしいが、口にしてみた。

「楓が昔・・・小学校の頃あんなことをしたとは思えない。その、訳を教えて欲しい」

 どうせ知らないだろうと半分諦めつつ訊いてみたが、思いの外彼は知っていた。なぜそんなことを知っているのか考えると少し気味が悪いが、とりあえず教えてもらうことにする。

「全員の前で言うのとお前一人に伝えるの、どちらが良い?」

 即答する、もしも自分が信じられたら胸の中にしまっておきたいと。そうでない時は、全員に意見を求めたいと。
 パキンと、乾いた音が彼女の脳裏に響いた気がした。その時、楓の当時の記憶が、起きたことが次々と蘇る。何も言わないことから察するに、納得ということなのだろうか。
 斎藤が、やはりあまり気にしていないことを口にした。ほとんど好奇心のようなもので訊こうとしたのだが、答えようとした瞬間に、あの感覚がする。

「ねえ、あなたのほんみょ・・」

 その瞬間、あの空間転送が始まった。時間が来たと、男は呟く。そして、斎藤と楠城の姿が消えた。

「安心しろ、現実に帰っただけだ」

 何か問いただされる前に男が先に口を開く。残された三人にも、転送が始まりかけている。最後に口を開いたのは、氷室だった。

「二人とも、また明日にでも・・・会えたらいいな・・・」

 ギリギリでそれを耳に入れたすぐ後に、視界が真っ白な光に包まれた——。









 ふと、背中に柔らかなものが当たっている感覚がする。それも、いつも感じているような。瞼は重く、疲労感もかなりのものだ。うっすらと、ゆっくりと目を開けると見慣れた天井という景色が飛びこんできた。

「ここは・・・俺の部屋?」

 帰ってきたのは一日ぶりの我が家。すぐ傍に置いてある時計に目をやる。げえむの始まった翌日の朝らしい。
 ここまでやって夢オチとかは勘弁だよと、身支度を始めた。半分、夢だったことを期待して。そんなことがある訳が無いのに。
 再び非日常に向けて加速しているが、彼の日常は再び、掌の中に舞い込んできた。
 もう一度時計に目をやると、指していた時刻はいつも自分の起きるよりも三十分早い時刻。カーテンを開いた彼は朝日を体いっぱいに浴びた。
 また今日も、いつも通りで、全く同じものの存在しない日々が続いていくのだと、平和と安全、安堵をその心の中で噛みしめた。




                                 第一章鬼ごっこ編完結、第二章に続きます



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ついに来ました、第一章完結。
詳しい振り返りや後書きは次回の総集編にて。
その後はまたしても更新ペースががくりと落ちちゃいます。
言うても週一か週二で更新しますけどね。
では、次回に続きます。