複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  第二げえむ開始です ( No.67 )
日時: 2011/11/12 21:55
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: z9DnoDxA)

第四十一話 違和感







 昼休み、退屈な芸術の授業の直後に陸上部は集合がかかっていた。集まってからの話題はおそらく、今週末に予定されている総体と呼ばれる大きな大会についての連絡事だろう。もしそうであれば楓には無関係な事ではないから行かなければならなかった。
 この高校の一年生の中長距離の部員は楓ともう一人しかいない。よって必然的に大きな、エントリー数の限られた試合でも両方が出ることができる。両方出るどころか一人当たり二つもの種目に出られる。
 そういうことから、楓とそのもう一人のメンバーは両方八百メートルと千五百メートルの試合に出場することになっていた。

「秀也がラストみたいだぞ」

 ふと肩に誰かの手が置かれた。その行動の主であろう男が楓に話しかけた。声ですぐに察した、後ろに立つのは先ほどから言っている、もう一人の中長距離のメンバーだと。
 名を、元眞代介(げんま だいかい)。こいつも小説を書いていた。その小説の題名は『リバーシブル』。なんとなくつられるままに書き始めたのだが、途中で面倒になって放棄したらしい。ハンドルネームもふざけたらしく、適当にテレビに映った高校の名前からとったらしく、北野(仮名)という名前だった。
 ついでに、この学校でもっとも楓が親しくしている友人の一人でもある。代介自身も下の名前で呼ぶほど楓とは仲が良い。

「全員揃ったわね。じゃあ、先生から話を聞いている私が取り仕切らせてもらうから。まず、今週末についての集合関連の連絡よ」

 司会に名乗りを上げたのは顧問の先生のお気に入りである、女子エースの竹永だった。つい先週三年生が引退してからというもの、部長よりも副部長である竹永が仕切っていた。
 元々部長自体練習と試合以外はあまり関心が無く、練習に打ち込むためにその他の事を色々しすぎたために頑張りを認められて部長に着任させられた。
 そんなことを思い出していないで、話を聞いていないと大変なことになると思った楓は連絡事項に耳を傾けた。

「集合は開門に合わせて八時。ただ、場所取りの人だけ三十分前に行っておいてね。集合場所は競技場に直接行ってくれたらいいわ。各自諸々の不注意からの出場停止やフライングが無いように気を付けること」

 この辺りの競技場と言えば、学校から少し歩いたところに市営のグラウンドがあったはずだ。一応大きな大人の試合なども行われたこともあり、それなりに整備されている。
 これで話は終わりだろうと気を緩めたところで思い出す。さっき竹永は『まず』と言ったのだ。その続きがあるに違いない。緩んだ緊張の糸をもう一度張った時に、今度は短距離の先輩が話しだした。

「えー・・・一身上の理由でその試合に出られなくなってしまったのですが・・・俺はマイルにエントリーしています。ということなので代わりに補欠として楓か元眞に入ってもらわないといけないんだけど・・・どっちが出る?」

 まずはマイルの解説だ。マイルとは、分かりやすく言うと四×四百メートルリレーだ。その総合走行距離はおおよそ一マイル(約千六百メートル)。おそらくそれが語源となりマイルと呼ばれるようになったのだろうと以前代介が言っていたのを楓は思い出した。
 それよりも問題なのは、今先輩が言ったように二人の内のどちらが出場するかだ。陸上をしていない者には無い知識だろうが、四百メートルは想像を絶するほどに辛い。個人差があるが千五百メートルの方がよっぽど楽だとこぼす先輩もいる。

「どうするよ、俺はどっちでもいいけど・・・」
「俺も・・・どっちでも良いんだよなぁ。速い方で決めるか」

 どちらでも良い、最初に代介がそう発言したのに合わせて楓は返したが、それは本音では無かった。正直楓は出たくなかった。そういう理由で楓は速い方が出ると提案した。千五百メートルならば代介の方が圧倒的に速い。そこを突けばと考えたのだが。

「四百って走ったことある?」

 ふと竹永がその会話に乱入してきた。一旦二人の話し合いを止めて先輩の質問に答えようと二人は体ごと向き直る。

「二人とも無いですね」

 あっさりと、代介が竹永に返した。あ、そうと軽快に受け流して次の質問を竹永は口にした。八百ならばどちらが速いか、と。それなら楓の方が速いと、皆が口を揃えて頷いた。話題が一つに絞られているからそれに皆が首を突っ込んでいた。
 じゃあ決定ねと、竹永が楓を指差して、笑顔で言い放った。

「楓の方がスピードあるなら楓に決まりね」

 言い出しっぺの楓は忘れていた、今どちらが出るか悩んでいるのは短距離の種目。それならば瞬発力のある方が選ばれるに決まっている。それを比べるには距離が長い方が不適、短い方が適している。
 つまりは共通して出たことのある最も短い距離で示唆するのだが、その場合は楓の方が代介より少し速いのだった。

「頑張れよ、応援してっから」

 満面の笑みで親指を立てて代介が楓を励ます。内心お前も嫌がっていたのかと、目で訴えながら苦笑する。顔も幾分か引きつっているように感じられた。「もちろん」という小さい答えが耳に入ったような気がした。

「じゃあ、決まりね。各自解散」

 そう言って、先輩の方から順に散り散りになっていった。この時に何か違和感を感じた。何かが首元につっかかえて出てこない。もう少しで出てきそうなのに、分からないという歯がゆくて仕方が無い感覚。重要な何かが、思い出せない。

「楓ー、聞いたぜー」

 後ろから、乙海が話しかけてきた。つい先ほどの代介のように嬉しそうに笑っている。何かこいつに良いことでもあったのかと考える。しかも自分についてのことで。
 そしてようやく思い出した、乙海と青宮には面識が無い訳ではないということを。

「ようやく始める気になったか!じゃあ、早く始めてね。すっごい読みたいから」

 クールなくせに人にベラベラ喋るのかと、少し楓は青宮に対して勘弁してくれとため息を吐いた。これで本当に後に退けなくなった。この後に赤弥に伝わると察するともう楓は叫ぶ以外に無かった。





                                             続きます



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はい、陸上の話ばっかりで申し訳ないです。
でもこれは二章にも三章にも関係あるから許してください。
後、北野(仮名)は俺のことです。
では、次回に続きます。