複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第四十一話更新 ( No.68 )
日時: 2011/11/14 21:42
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: z9DnoDxA)

第四十二話 physical and mental fatigue









 確かにこの日は色々あったが、思い返してみると部活が最も辛かったと思う。時計が午後七時を指しているその時、机に向いながら楓はそのように呟いた。
 氷室が転校して来たり、アダムが来てげえむが始まったり、小説書く羽目になったりしたが、それよりも遥かに部活が辛かった。鬼のように辛い特訓のようなもので、普段の数倍疲れたような気分だ。
 そういうことで肉体はかなり疲弊していたのだが、それと同様に精神面もかなり疲労していた。まずそもそも色々とありすぎた。たくさんのことが今日一度に起こったせいで薄れてはきているが、そもそも鬼ごっこが終わったのは昨日、というよりも今日の朝だ。
 あんなに肉体を駆使させたはずなのに、その時の疲労は嘘のように取れていた。それだけではない、鬼ごっこが終わったと思った次の瞬間に起きたのに、何時間もぐっすりと眠れていた。八時に竹永の家の前でいきなり裏側の世界に入り込んだというのに、だ。
 あんなに多くの者を一度に転送できた事と言い、あいつらの技術は相当なものだと思われる。しかし、そんなことができる科学力はこの地球上に存在しているかどうかと訊かれると、答えは『No』だ。ある訳が無い。
 それなのにそれが可能、さらにはあのヴァルハラの使者という謎の男の証言によると、アダムの使者という、簡略化して説明すると敵の連中は『神様』だということになる。そのような現実を遥かに超越する霊的な力を持っているとすると、あたかも楓の気が狂ったと思われがちだが、あいつらは確かに実在した。果たしてこの世に神様がいるのかと訊かれた場合、都合の良い答えを楓は持ち合わせていなかった。

「一体、あいつらって何なんだ?」

 まず、そもそも向こう側がなぜこのようなことをするか、そのことがまず楓には納得できなかった。神様だったらむやみに人を殺戮するようなことは決してしないだろうし、悪行を働く人間をただ処罰するというだけなら、自分たちにリスクの降りかかるあんな方法をとる必要も無い。
 それに、ヴァルハラの使者は『戦争』とも言っていた。アダムも自分たちが死んでしまうとぼそりと呟いた。これについての全ての関連性はさっぱり分からない。
 今現在楓の頭に浮かんでいる予測を全て整理すると、このようになる。まず、第一にアダムの使者が『神様』であると断定したとする。すると、ヴァルハラの使者によると人間とアダムの使者は、争い合い、戦争をする運命らしい。そして、代表者に選ばれた可能性があるのが楓を含めた昨日の生き残りの五人。対するアダムの使者は二十五人。
 だがここで出現するのは、ヴァルハラの使者という、どっちつかずの存在だ。予測では、不正が行われていないかの監査をする中立的立場、あるいは神と人間では格の違いがありすぎるので人間側に助力する後ろ盾。ここではどちらかというと、監査役の方が信憑性が高い。
 ただし、それはただ単なる楓の主観というだけであって、どこまでが正しくてどこからが間違っているのか、それとは逆にどこまでが間違っていてどこからが正しいのかの判別はできない。

「やべ、そろそろこんがらがってきたかも・・・」

 たくさんの事を考え過ぎて、頭が混乱してきた。段々と頭痛が襲ってくるような気もするがそれはおそらく気のせいだろうと溜息を吐いた。

「何か息抜きでもするかな・・・ていうか宣言したから書かないといけないな・・・」

 そうして、自室にあるパソコンに向かった。いつ以来だろうか、遊ぶ目的でパソコンを使うのなんて。パソコンを使うのはほとんど調べ物をしたいとき、そしてメールをしたい時だ。
 こうして、息抜きや遊びの類で使うのは数年ぶりだった。インターネットの検索欄に、小説『投稿』という言葉を入れるのはおそらく人生で初だろう。

「とりあえずなんかアドバイス的なの探すか・・・」

 そうこう探してみても一切見つからない。仕方なくノーヒントで、手探りで誰かのを手本としてしてみようととりあえず水月、つまりは青宮の作品を開く。
 とりあえずはボキャブラリーの多くした方が良いかと思い、新規作成の部分をクリックする。書き出しはとりあえず、上り坂を登り切るぐらいに自分の言い放った言葉から書きだす。
 そこから、想像以上に時間を費やして第一話を完成させた。一時間あれば一話ぐらい出来上がると思った。が、現実はそう甘くなく、二時間程度かかった。

「できた・・・ってもう十時かよ!」

 制限時間も刻一刻と近づいているなと、余裕を持って彼はそう言った。おそらく一つ目のげえむをクリアしたことが彼に過剰な自信を与えていたのだと思われる。
 壁に目をやると、自分の好きな言葉がいつも通り額縁の中の紙に書かれて入っていた。


『やりたいことならしたら良い。
 絶望が渦を巻くなら泣き叫べば良い。
 消え去りたいのならば死ねば良い。
 世界を愛することができないのなら、一人の人間を愛せば良い。
 世界が嫌いなら変えれば良い。
 英雄がいないと言うならなれば良い。
 どれも簡単なことのはずだ、したいと本能が叫ぶままにするだけ。
 何を迷うことがあるというんだ。
 そうは言っても動けない、それが人間という生き物だろう。
 英雄がいないと君は言うが、本当にそうかもう一度考えてみろ。
 この世に自分を産んだ両親は彼や彼女にとって一番の英雄だ。
 英雄とは必ずしも光と栄光に包まれた存在ではない。
 汗と泥と血と涙と、しわくちゃになりながらも煌めく英傑はそこにある。
 それでも君は、英雄になりたいでしょうか?
 否、誰もがすでに誰かにとってのかけがえの無い存在。
 なろうと思ってなるものではなく、認められてなるものなのだ、本来それは。
 本当に世界が黒く汚れた時に叫んでみろ、涙を湛えて「英雄になる」と』

「全く、こんなこと言った奴が家族捨ててどうすんだよ」




 それを言う楓の表情はいつになく冷たく、暗く、重く、固く、沈んでいた————。



                                             続きます



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さて、一日目終了です。
やはり予想通り二章の進行は速いですね。
というか俺もなんかこっちばっかり更新してますね。
明後日こそはもう片方の方を・・・
では、次回に続きます。