複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=   鬼ごっこ編第七話更新 ( No.7 )
日時: 2011/09/23 21:08
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: /tWbIoNn)

第八話 氷室冷河





「こんな奴、足手まといにしかならないわ。切り捨てた方が身のためよ」

 氷室は、ずっと俯いて黙っている楓をしり目に、冷たくそう言い放った。良く見ると、恍惚の表情が浮かんでいる。長年の間思っていた復讐が果たされた充足感だけが全身を覆っていた。清々しさと解放感だけが冷河には感じられていた。勝ち誇ったような笑みを浮かべて、目の前の三人を眺めている。
 でも、その表情が崩れるのは、想像を絶するほど早かった。

「ふざけないで、見てたのなら分かるでしょう。楓のどこが足手まといなのよ。自分の信頼してる人間が傷つけられるのを見ると、私結構イラつくのよね、どう?いっそのことあなたこのまま私達に謝罪してくれる?」
「全く以てその通りだ。俺は自分の怪我の手当てをしたりしてくれた恩人を、見ず知らずの人間の妄言とも現実とも知れない話で見捨てるほど、クズに生まれ、育った覚えは無い」

 二人の回答を聞いた冷河は、驚きの表情を露わにした。しかし考えてみたらそれは至極当然の話だ。
 今楠城が言った通り、二人にとって自分は、見ず知らずの赤の他人だ。それでもって秀也はというと、竹永にとっては部活仲間であり、氷室は知らないがご近所さんであり、窮地を共に脱出した仲間でもある。
 そのうえ、楠城にとっては楓は自分を空港と言う安全地点に連れだしてくれた上に、銃創の応急措置もしてくれた者で、オーバーに言うと命の恩人だ。そんな大切な人間がポッと出の奴に言われるがままにけなされるのは、気分が悪いに決まっている。
 どうしようかと決めあぐね、頭の中で考え続ける。

「まあ、私もこれ以上とやかく言うつもりは無いわ。その話が真実かどうかも分からないし、あなたが誰かも知らない。楓の動揺具合をみると、その話は本当かもしれないけど、楓がそんなことをするとも思えない。それに、のっぴきならない理由があったなんてことは無いとも断言できない。だからこの話は聞かなかったことにするわ」
「そうだな、俺もそうするか」

 冷河は、さっきから自分が言おうとしていることをことごとく言う前に遮られてしまい、発するべき言葉を未だに決めあぐねていた。「楓の動揺を見る限り、その話は真実じゃないのか」と追及するつもりだったが、それの答えもあっさりと先制して返された。
 その上、先に情けをかけられて今のことは無かったことに『してやる』といった言い回しで返されたのも相当に屈辱的だった。しかし、ここでいくつか年上の女性に刃向かうのは、はっきりいって逆上に近い。何度も言っているように、向こうは自分の仲間をバカにされて怒るのも当然であり、こちらに強い言葉を返すのも当然と言う訳だ。そんな中でいきなり自分が「どうしてそこまで私が言われないといけないのか」なんて聞いたらそれこそ憐みの目が返ってくるだろう。
 はっきり言ってそれは望ましくない以上に、絶対に起こって欲しくない。今のは自分にも非があったと反省しつつ、言葉をようやくつなげた。

「いいわ。だったら私もあなたたちに付いていくわ。そこで教えてあげる。そこの男は、私やあなたたちよりこんなことに向いていないって」
「何を勝手に決めているの?あなた、楓に何を言ったかわかって・・」
「いいです、先輩。連れて行っても」

 さっきから、というよりも、氷室が語り始めてからずっと震えて黙りこくっていた秀也がようやく口を開いた。しかもその内容は冷河を連れて行っても良いという許可、楠城たち二人が驚いたのは言うまでも無い。

「本気!?今何を言われたか分かってる!?」
「止めておけ、集団がいがみ合ったら崩壊するぞ」

 楓の解答を猛スピードで二人は止めようとする。しかし、今の発言を取り消すつもりは楓には無かった。

「それが贖罪につながるというのなら、何だって耐えてみせます。この身に、命に代えても」
「ああ、そう分かったわよ」

 半ば呆れるように叶はそう呟いた。かと思うと、キッと鋭く冷河を睨みつけた。言葉にしなくても言いたいことは分かる。次に楓をけなしたら、本気でぶちギレると、目がそう物語っていた。

「決まりだな。だとしたらさっさと出るぞ。もうすぐ三十分だ」
「もうそんな時間なの?仕方ないわね。行くわよ、四人で」

 楠城と竹永の二人は、過去に何かしらの因縁を持ち得る彼ら二人を導いている。あれだけびくびくと怯えていた楓は、少し気が晴れたのか顔立ちは元に戻っていた。
 それとは対照的に、氷室はさっきまでの高揚感と優越感はすっかり影を潜めて、殊勝な態度になっていた。








                                    続く





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はーい、一悶着ありました。

ではでは次回に続きます