複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第四十六話更新 ( No.79 )
日時: 2011/11/30 15:47
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: cwdkZwkQ)
参照: 今週テストで学校午前だけなんです

第四十七話 帰還







「じゃ、楓君と氷室ちゃんは元の世界に戻ってもらおうか」

 今もまだ苛立ちの残っているアダムが負けたのだから仕方ないと開き直って二人の方に向きを変えた。忌々しげにその顔は歪んでいる。声だけ聞いた印象に過ぎないのだがもっとふざけた奴だと思っていた楓にとってこの表情は予想外だった。
 ヴァルハラの使者という謎の男からアダムたちは神だと聞いたのに、反応は人間そっくりだと思う。しかし、対等な力での争いが起こることからそれほどアダムの使者と人間に相違点はないのかとも考えられる。

「で、ちゃんと帰してくれるのかしら? 大層ご立腹の様子だけど?」

 少し皮肉を込めて、やや緊張で上ずらせた声で無事に帰してくれるかの確認を氷室はする。こんな時にそんな挑発するようなことを言わなくてもいいだろうにと、その気の強さに少し楓は呆れる。

「とりあえず、こっちで過ごした二日程度の出来事は、向こうでもあったことにするから。要するに、別に過去に戻ったりはしないから明日はちゃんと楓君の場合試合があるよ」

 なんで自分のスケジュールまでお前が知っているんだと楓は言いだそうとしたが、今は関係無いと口を塞ぐ。それでも大体言いたいことは伝わった。げえむに関係の無いことは全て、こちらで起こった事が向こうにも反映されるのだ。残念なことに、楓が小説を書き始める事になったことも。

「面倒だけどこの二個目のげえむの内容と経過を竹永ちゃん、斎藤さん、楠城さんの三人にも送っておくから。今度げえむする時は全員呼んであげるから楽しみにしててよ」

 いや、できれば誘って欲しくないんだけれども、冷や汗を浮かべて氷室と楓が意気投合して全力でそれを拒絶しようとする。だが、断る権利は誰も持っていないと、アダムは断言する。それだけならいいのだが、理由はよく分からないが『アダムまでも』が楓の正体を拒否する権利が無いのだとか。

「何でお前に拒否権が無いんだよ、おかしいだろ」
「仕方ないじゃん。終末の採択試練に参加する人間を決めるのは、僕らじゃなくてブラフマーなんだから……」

 ブラフマー、新しく出てくるはずのその言葉には、どこかで聞いた覚えがあった。いつ聞いたのだろうかと思い返すと、幼い頃に父さんから聞かされたのだと彼は思い出した。ブラフマー、インド神話の想像神——。

「やっぱり神様が絡んでるのか……」
「そうだよ、もしかしてその段階で信用してなかったの?」

 アダムはそう言うが、信用するも何もいきなりそこいらにいる一般の人が「あなたは抽選で選ばれたから神様と戦争をしてください」と言われて信じるだろうか。少なくとも自分はそんなことは無いと楓は言いきった。私も無いわよと、なぜか刺々しい声で氷室も賛同する。だがやはり、中々すぐには信用できない中身なのだ。

「まあ、確かにそうだよね」

 自分で信用してないことをバカにしたくせに、アダムは不意に二人につられてやはり信用しない方を肯定した。お前の主張はどちらなのだと、氷室の辛辣な声がかかる。そろそろアダムの表情も、普段の彼に合ったものに戻っていた。

「ていうか僕も暇じゃないから早くしてくれる?」

 時間が無駄になるだけだから早く帰る準備をしろとアダムは催促する。それもそうだと楓は思い返す。明日試合があるのだと言えば、今日の練習には出なければならないのだから。

「さてと、じゃあ行くよ」

 またしても、景色が歪む感覚がして、二人は元の世界に戻った。







                     another side


 真っ暗な空間に、一つだけぽつんと机が置いてあった。その机の椅子に一人の老人が座って、机上のチェスをじっと眺めていた。対戦相手もいない、暇な暇な時間。誰か相手を探そうかと思ったその時、一人の小さい子供がやってきた。
 それを足音で察した老翁は長い長いあごひげを揺らして振りかえる。振り返ったその顔の上の左目には、眼帯がかかっていた。ボロボロの薄汚い雑巾のようになった布をその身にまとっている。肩には、死神を思わせるような鎌を担いでいる。

「何じゃ、イグザムか」

 人間年齢にして十やそこらの小さな少年、白銀の髪と翡翠色の瞳を持っている。最も若くして幹部に属する天才。

「やっぱり。Deathっていっつもここにいるもんね」
「で、何か用か? お前が来る時、大概は遊びたいとか頼みがあるとかじゃろう?」
「うん…… 骸骨組いるじゃん?」
「儂の部下じゃな」

 骸骨組、消えたイクスやジールの属するV以下の集団の事。使者の中で最下層に位置するいわゆる捨てゴマのようなものだと、しょっちゅうあの方はこぼしているなと、思い出す。

「それなんだけど……譲ってくれない?」
「別に構わんが、どうかしたのか?」
「第三げえむは母さんに頼みこんで指揮権を貰ったんだ。自分は出ないんだけど、楓たちと一緒に闘ってくれる部下が僕にはいないから」

 そういえばそうかと、老人は頷く。イグザムは幹部なのに自分の直属の部下を持っていないのだ。だから前回も引き連れる要員を直前になって探していた。

「で、その三つ目のげえむはいつじゃ?」
「大がかりなセット使うからねー。来週再来週ぐらい?」

 かなり先延ばしにするのだなと、少し彼は驚いた。Deathにも驚くタイミングがあるのかと、ケラケラとイグザムは笑った。

「ならば全員持っていけ。儂にはそれでも何人か残っておるしな」
「ありがとね、気が向いたらDeathも参加する?」
「何のげえむじゃ?」

 ああ、それはね……小さく、聞きとりづらい声で彼は耳打ちした。興味深そうにDeathは聞きとる。聞いた途端に少し心躍るような気分になった。

「ふむ、確かに大がかりじゃな。じゃが、それ以前にお前の作るげえむというのが気になる。気が向いたら参加しようぞ」

 これで鬼に金棒と、でも言う風に喜んだ後に、彼は準備の続きをしてくると言って去っていった。

「双六か……どのようになるんだろうの」

 その双六が始まるまでは、楓とやらは楽しむんだろうなと顎鬚をなでながら彼は考えた。この世で最も邪悪な、現実という名の遊戯<ゲーム>を。




                                 第二章完結、三章に向かって続きます


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はい、二章終わりました。
前回同様次回は総集編的なのをする予定です。
では、三章も皆様よろしくお願いいたします。