複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二章、完結! ( No.83 )
- 日時: 2011/12/18 16:30
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 4.fDTnfO)
第三章一話 最低最悪の再会
「おいコラ楓遅刻してんじゃねぇ! 試合だぞ!」
「遅刻してねーよ、今何時だよ。八時五十五分だよ」
「集合は九時って言われていただろーが!」
「だからセーフじゃねーかよ! 五分前だぞ!」
「基本は十分前行動だろ!」
「うるせえよ、ほとんどの人は最悪でも五分前行動だ」
今日明日と、大きな試合が行われるため、モチベーションを上げて行かないといけないというのに、青春真っ盛りといった年代の二人の高校生が同級生数名の前で凄まじい口論をしていた。片方は、集合時間よりも早い時間が真の集合時間だと主張し、もう一方の楓と呼ばれた彼は、五分前で充分間に合っていると言い張る。そんなものどうでも良いだろうと。周りの全員は冷や汗を浮かべて見守っていた。
この討議はよくあることで、この二人のじゃれあいのようなものに最近は変化している。最初の方は本当に討論であり、十分前か五分前かでどうでもいい話で三十分程時間が無くなったほどだ。
そして今も、この口げんか中は周りの者の声は耳に届いていない。乙海がどう止めようとしても、聞く耳を持たないのだ。竹永の声もほとんど聞こえていない。竹永の声量はいつしか代介のそれよりも大きくなっているというのに、だ。
何度も何度も何度も何度も語りかけているというのに、何の反応も示さない二人に、ついに乙海と竹永は堪忍袋の緒が切れたようで、よく漫画の表現で有りがちな血管を額に浮かばせて、二人に襲いかかった。
「十分前!」「五分前!」「十分前!」「五分前!」「十分前!」「ごふんま・・」
「うるさ——————いぃっ!!!! いい加減にしろって何度言ったら分かるんだよ!」
乙海は代介に、竹永は楓にそれぞれ拳を握りしめて腹部を殴る。突然横から入った衝撃に二人は顔をしかめる。バトル物のアニメで出てきそうな短い嗚咽のような呻き声が漏れる。
「いってーな! 何すんだよ乙海!」
「何するんですか先輩、痛いじゃないですか!」
二人の声は重なり、一斉に殴りかかってきた二人に抗議する。さっきまでの口論の勢いがまだまだ残っているようでその声にはかなりの勢いがあり、耳に響いた。だが、女性二人の、元々あまりのうざったさに向ける怒りで歪んだ顔は今にも爆発しそうだった。
「うるっさいわねー、男だったら女に殴られても黙ってなさいよ」
「黙れよ遅刻魔。お前が一番遅刻回数多くて癇に障ってんだよ」
以前も申し上げた通り、乙海は金、そして時間の使い方が下手だ。要するに、あれやこれやしているうちに時は過ぎ去り、いつの間にか遅刻している。そういうことが過去に多々あった。
「いつまで能天気そうにしてんのよ」
そんな二人を尻目に竹永は楓に問いかける。口ではかなりキツイ事を言いながらも、説教をするふりをして、皆から少し離れた所に楓を連れていった。
何をするのだろうかと楓は思ったが、先日のアダムの言葉を思い返していた。第二げえむの結果、そして経過は現実世界にいる竹永、楠城、斎藤にも伝わっていると。
「色々大変だったわね。で、その後はまだ動きは見せてないのよね?」
「はい、全く動く気配は無いですね。大がかりな下準備だったりするんじゃないでしょうか?」
「かもね、まあとりあえずはそれは忘れて走りなさい」
先輩らしく貫禄を見せつけて彼女は楓の肩に軽く手を置いた。楓は黙って頷き、静かに了解の意を示した。いつ来るか分からないことよりも目先の事に集中しろと言われた楓は今まで以上に気を引き締めた。とりあえずは今日のレースで力を出し切ろうと。
いつもと変わらない普通の試合になる、その筈だった。そのはずだったのだ、あんな者が現れるとは微塵も思ってはいなかったのだから。封印したはずの災厄が、パンドラの匣から再びその姿を表わす、この日はそんな一日になった。
競技場内部に入り、先に入った代介たちを探す。すると着替えなども完了し、今にもウォーミングアップに出かけそうだった。今日の試合は千五百メートル、開始時刻は大体一時頃だ。昼ごはんは終わってから食べないといけない中途半端な時間帯であり、一番避けたい時間帯だった。しかし、だからと言って大会の運営委員に直訴しようと軽くあしらわれるだけであり、それだけで済むとは到底思えない。今さら決まっている予定を軽々しく変更はできない。運命と同じ————。
乙海は今日は休みのようなものなので荷物番をしているようなので、すでに行ってしまった代介を追うことにした楓は急いで支度をする。ジャージを脱いで半袖半ズボンになり、鞄から靴を取り出す。シューズ袋の紐を掴むと同時に小走りで駆け出した。
「痛ってぇな! んなんだよバカのくせに」
突如、楓の右側から誰かを罵倒するようなセリフが聞こえてきた。何事かと思った彼は横を振り向いてみた。するとそこには二人の高校生がいた。
「何なんですかいきなり! それにあなたが人をバカと呼べる権利があるんですか!」
相手を罵って絡んだのは楓よりもほんの少し身長が高い程度の男子であり、絡まれたのは日向(ひゅうが)高校とプリントされたジャージを着た背の低い女子だった。何事かと思ったのは楓だけではないようで、周囲の十数名の人間がその喧騒を見ていた。
その様子を目に収めたのか、絡んでいる方の男子と似たような服装の男子が慌ててやって来る。どうやら同級生のようで、必死で名前を呼んでいざこざを起こすなとなだめている。
「あるに決まってんだろ。底辺のボケは黙ってりゃ良いんだよ」
「初対面の者に向かって底辺と言い放つとは、つくづく下賤な言い草ですね」
「ああ? 日向なんて底辺じゃねえか」
「……何ですって?」
自分の高校自体を低い者たちの集団と断言されたその女子は眉間に幾重もの皺を寄せて静かに怒りを露わにした。
「あなた……どうしようもない人間なのですね」
「ハア? 最初にぶつかったのはてめえだろうが! それに対しての謝罪も無いのか?」
「それを言う前に私を罵ったのはどこのどちらかしら?」
「ハッ、それならそれより早く謝りゃいいんだよ」
「いい加減にしろ琥珀!」
さきほど彼の下に駆けつけた知り合いは、遂に声を荒げて半分無理やりそこの喧嘩に入りこんだ。
「良いところで邪魔すんなよ、翡翠」
「そんな事言ってる場合か! こんな場所で問題起こしてんじゃねえ!」
翡翠と呼ばれた青年は琥珀と呼んだ少年を抑えつける。その瞬間に楓は目を逸らした。冷や汗を流しながら。
まさか……あいつ——————————。
続きます
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日向高校は適当に名前を作りました。
実在してても俺は狙って書いた訳ではございません。
少なくとも俺の受験できる範囲には無いので。
では、次回に続きます。